11:00 〜 11:15
[SSS15-13] 摩擦・剪断抵抗の速度依存性に関するリソスフェアの不均一構造:摩擦―流動則からの推察
キーワード:摩擦ー流動則、断層のレオロジー、地震の発生機構、断層の力学、リソスフェアのレオロジー
リソスフェアを横切る大断層またはプレート境界の挙動は,浅部の摩擦すべりから中間領域をへて高温流動変形への変化によって特徴づけられる.摩擦―流動則(Shimamoto and Noda, 2014)は,摩擦構成則パラメタ,流動則パラメタ,深部の剪断帯の幅wのみを用いて,このような摩擦から流動への変化を記述することができる.摩擦則と流動則は,それぞれ変位速度と変位および剪断歪速度と歪量を用いて記述されているので,wは両方の法則を連結させるために必要なパラメタである.摩擦から高温塑性流動への変化は主要な岩石では実験的に再現されていないが,摩擦と高温塑性流動については多数の実験がなされているので,摩擦―流動則は多彩な岩石に対して適用することができる.とくに,摩擦―流動則は摩擦から流動へのスムーズな変化を記述しており,浅部条件下では摩擦構成則へ,深部条件下では流動則へ移行する.中間領域で異常な挙動がおこらない限りその予測は大きくは違わないはずである(岩塩剪断帯の中間領域のデータは見事に記述できる).摩擦・剪断抵抗の速度依存性(以下,「速度依存性」と呼ぶ)は,地震の発生を含めて断層の挙動に大きな影響を与える.講演では,摩擦―流動則から「リソスフェアがこの速度依存性についてどのような不均一内部構造をもつ」と予想されるか,またそのような不均一性構造が地震の発生にどのような影響を与えるかを考察してみたい.
摩擦の速度依存性は非常に小さく,断層の安定挙動をもたらす速度強化,不安定な挙動を起こしうる速度弱化,または速度に依存しない性質を示す.一方,中間領域にはいると速度依存性は急激に大きく増加して速度強化のピークを迎え,流動領域に向かって速度依存性は減少する.剪断抵抗が垂直応力に依存しない流動領域では,速度依存性は流動応力の減少とともに小さくなる.定常摩擦の速度依存性を示すパラメタ(a-b)に対応する量を深さに対してプロットすると,リソスフェアの強度断面に似たピーク曲線が得られる.しかし,速度依存性の大きな変化は中間領域の内部でおこるので,速度依存性を示すプロファイルは強度断面よりも遙かにシャープなピークをもっている.速度依存性を示すピーク曲線の上半分は,Tsu and Rice (1986)以来地震のモデリングでしばしば使われる摩擦の速度依存モデルとよく似ている.摩擦の速度依存モデルでは流動の性質は与えられていないが,速度依存性のピークは大地震発生時に断層すべりが深部に伝搬するのを防ぐので,地震発生のモデリングは可能である.
摩擦の速度依存モデルでは摩擦の速度依存性と深さの関係は固定されていて静的であるが,摩擦―流動則を用いると,速度依存性が岩石の種類,物理条件(温度・圧力・間隙水圧),変位速度などによってどう変化するかを,地震間と地震発生時を含めて計算することができる.速度依存性が急激に大きくなる条件,速度依存性のピークの大きさと位置などは,岩石が流動を始める温度と変位速度に大きな影響を受ける(変位速度が遅いとより低温下で流動変形が始まる).よく知られているように,石英を含む岩石はより低温下で流動が始まり,石英に乏しくて長石・角閃石・輝石などを主要鉱物とする岩石ではより高温で流動が始まる.その結果,速度依存性についての最も大きな不均一性はリソスフェアの中心部,つまり摩擦から流動に移行する中間領域で認められるはずである.地質図で見られるように,流動温度が高い岩石とより低温で流動する大小の岩石が混在するならば,摩擦の性質を残した部分と,塑性流動の影響をうけた顕著な速度強化の領域が混在することになる.この不均一性は,摩擦の性質の不均一性から予想される不均一性より遙かに大きいものである.残念ながら沈み込みプレート境界で重要な泥質岩の流動則は決まっていないが,高圧型変成岩の変形をみると泥質岩はもっとも流動変形を受けやすい岩石である.従って,沈み込みプレート境界における地震の下限付近では,高い速度強化または流動的なマトリックス中に摩擦の性質を残したパッチが散在するような不均一構造が予想される.そのようなマトリックスは局所的なすべりが大きく広がって大地震に発達することを抑制するはずだから,このような不均一性をもつ断層またはプレート境界はスロースリップとか低周波地震などを起こす可能性がある.摩擦―流動則から予測される速度依存性の不均一構造を組み込んだ地震のモデルリングを期待したい.
摩擦の速度依存性は非常に小さく,断層の安定挙動をもたらす速度強化,不安定な挙動を起こしうる速度弱化,または速度に依存しない性質を示す.一方,中間領域にはいると速度依存性は急激に大きく増加して速度強化のピークを迎え,流動領域に向かって速度依存性は減少する.剪断抵抗が垂直応力に依存しない流動領域では,速度依存性は流動応力の減少とともに小さくなる.定常摩擦の速度依存性を示すパラメタ(a-b)に対応する量を深さに対してプロットすると,リソスフェアの強度断面に似たピーク曲線が得られる.しかし,速度依存性の大きな変化は中間領域の内部でおこるので,速度依存性を示すプロファイルは強度断面よりも遙かにシャープなピークをもっている.速度依存性を示すピーク曲線の上半分は,Tsu and Rice (1986)以来地震のモデリングでしばしば使われる摩擦の速度依存モデルとよく似ている.摩擦の速度依存モデルでは流動の性質は与えられていないが,速度依存性のピークは大地震発生時に断層すべりが深部に伝搬するのを防ぐので,地震発生のモデリングは可能である.
摩擦の速度依存モデルでは摩擦の速度依存性と深さの関係は固定されていて静的であるが,摩擦―流動則を用いると,速度依存性が岩石の種類,物理条件(温度・圧力・間隙水圧),変位速度などによってどう変化するかを,地震間と地震発生時を含めて計算することができる.速度依存性が急激に大きくなる条件,速度依存性のピークの大きさと位置などは,岩石が流動を始める温度と変位速度に大きな影響を受ける(変位速度が遅いとより低温下で流動変形が始まる).よく知られているように,石英を含む岩石はより低温下で流動が始まり,石英に乏しくて長石・角閃石・輝石などを主要鉱物とする岩石ではより高温で流動が始まる.その結果,速度依存性についての最も大きな不均一性はリソスフェアの中心部,つまり摩擦から流動に移行する中間領域で認められるはずである.地質図で見られるように,流動温度が高い岩石とより低温で流動する大小の岩石が混在するならば,摩擦の性質を残した部分と,塑性流動の影響をうけた顕著な速度強化の領域が混在することになる.この不均一性は,摩擦の性質の不均一性から予想される不均一性より遙かに大きいものである.残念ながら沈み込みプレート境界で重要な泥質岩の流動則は決まっていないが,高圧型変成岩の変形をみると泥質岩はもっとも流動変形を受けやすい岩石である.従って,沈み込みプレート境界における地震の下限付近では,高い速度強化または流動的なマトリックス中に摩擦の性質を残したパッチが散在するような不均一構造が予想される.そのようなマトリックスは局所的なすべりが大きく広がって大地震に発達することを抑制するはずだから,このような不均一性をもつ断層またはプレート境界はスロースリップとか低周波地震などを起こす可能性がある.摩擦―流動則から予測される速度依存性の不均一構造を組み込んだ地震のモデルリングを期待したい.