日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT48] 合成開口レーダー

2018年5月21日(月) 13:45 〜 15:15 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:森下 遊(国土地理院)、小林 祥子(玉川大学)、木下 陽平(一般財団法人リモート・センシング技術センター、共同)、阿部 隆博(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)、座長:森下 遊(国土地理院)、阿部 隆博(JAXA)

14:00 〜 14:15

[STT48-02] InSARによる遠音別岳の地すべり運動の解析

*本野 穣治1高田 陽一郎2 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻、2.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学専攻)

キーワード:InSAR、地すべり、ALOS2

地すべり運動は山岳地形を形成する重要なメカニズムの一つである。また、地すべり運動の特性を明らかにすることは防災・減災の観点からも重要である。

 知床半島は北海道でも有数の地すべり地形の集中地域であり、大規模な地すべり地形が数多く存在する。知床半島の地すべり地形については伊藤(1994, 1996)によって空中写真判読による構造の解析が行われている。本研究では、こうした知床半島における既知の地すべり地形が現在も運動しているのか、またその運動は時間的に変化しているのかという点についてInSAR解析によって明らかにすることを試みた。

 日本は過去にJERS-1、ALOS及びALOS-2の3基のSAR衛星を打ち上げており、約15年間にわたる観測を通じてデータを蓄積してきた。これらのSAR衛星は植生の影響を受けにくく、干渉性が高い長波長のマイクロ波(L-band)を用いており、植生の豊富な地域でも地殻変動を検出することが可能である。また、地表に観測機器を置く必要がないというSAR観測の特徴も、立ち入りの困難な知床半島の観測に適している。

 本研究では、まずこれらの地すべり地形がSAR衛星が観測を行っている期間で変動が起こった地すべり地形を運動している期間を検出する調べるために、JERS-1、ALOS及びALOS-2のデータから計7組の独立で、なるべく条件の良いな7組のSAR画像のペアを用いてInSAR解析を行った。その結果、ALOS-2の上昇軌道のペアで遠音別岳南東斜面において約9か月間で衛星視線方向に最大+4.3cmの変動を示す変動縞が検出された。この変動縞の位置は先行研究(伊藤, 1994, 1996)により明らかにされている既知の地すべり崩土と一致している。地すべり崩土は遠音別岳山頂の滑落崖から南東方向に約4.5kmにわたって伸びており、得られた変動縞は特に崩土の中央から山麓側で大きな変位を示している。その場所では圧縮しわが複数存在していることも明らかにされている(伊藤, 1994, 1996)。これらのことから、InSARで検出された変動は地すべり運動によるものであることが示唆される。また、他の6組のペアでも同様に遠音別岳南東斜面において変動縞が検出された。その運動速度は上昇軌道では最も速い地点で衛星視線方向におよそ+0.8cm/yr~+5.6cm/yr、下降軌道ではおよそ-1.8cm/yr~-2.9cm/yrであった。このことから、遠音別岳南東斜面において1993年から2015年までの20年以上にわたり地すべり運動が継続していることが明らかになった。

 次に、遠音別岳南東斜面の地すべり運動の時間変化を明らかにするために、ALOS及びALOS-2のデータを用いて16枚の干渉画像を作成した。これらは撮像期間が約3年間のペアと、その期間を約1年ごとに分割するようなペアの計4組をALOS-2及びALOSの上昇軌道と下降軌道それぞれについて選定したものである。解析の結果、ALOS-2及びALOSいずれの運用期間でも遠音別岳南東斜面で変動縞が得られた。このことから、2011年から2014年と2007年から2010年のいずれの期間でも運動は連続的であると考えられる。また、特にALOS2については1年ごとに分割した全てのペアで変位が検出された。ALOS-2の観測によると衛星視線方向(上昇軌道)の運動速度は最も速い地点でおおむね3~5cm/yrであった。一方、ALOSの観測では上昇軌道及び下降軌道ともに衛星視線方向の運動速度がALOS-2の観測よりも遅く、ALOS-2とALOSの期間では運動速度が変化している可能性がある。



謝辞:本研究で用いたPALSARおよびPALSAR2データはPIXEL (PALSAR Interferometry Consortium to Study our Evolving Land Surface) において共有しているものであり,宇宙航空研究開発機構(JAXA)と東京大学地震研究所との共同契約によりJAXAから提供されたものである.データの所有権は経済産業省およびJAXAにある.