日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT48] 合成開口レーダー

2018年5月21日(月) 15:30 〜 17:00 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:森下 遊(国土地理院)、小林 祥子(玉川大学)、木下 陽平(一般財団法人リモート・センシング技術センター、共同)、阿部 隆博(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)、座長:小林 祥子(玉川大学)、木下 陽平(RESTEC)

16:45 〜 17:00

[STT48-12] 「だいち2号」を用いたブータン氷河湖台帳の更新にむけて

*永井 裕人1田殿 武雄1 (1.国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

キーワード:合成開口レーダ、氷河湖決壊洪水、氷河湖台帳

ヒマラヤ高山域では、氷河湖の突発的な決壊洪水(GLOF: Glacial Lake Outburst Flood)が、自然災害の一つとして懸念されている。ブータン・ヒマラヤでは2011年までの氷河・氷河湖の台帳が高分解能衛星画像を用いて整備されたが(Ukita et al., 2011; Tadono et al., 2012; Nagai et al., 2017)、その後の更新が進められておらず、どの氷河湖が現在も拡大を続けているのかを広域把握するには至っていない。ブータンでは最近でも小規模な氷河湖決壊洪水が確認されており、GLOFの科学的理解がなおも強く求められる。本研究では天候の影響を受けずに観測が可能な合成開口レーダを用いて氷河湖を自動抽出する手法を検討する。

まず湖の位置を特定するために、宇宙航空研究開発機構が公開する「ブータン氷河湖台帳」(2006年から2011年までのALOSパンシャープン画像から手動抽出)を参照情報とした。次に陸域観測技術衛星「だいち2号」(ALOS-2)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR-2; パルサー2)によってブータン周辺を2014年以降に繰り返し観測しデータを用いた。観測モードはStripmapモードであり、空間分解能は3-10 mである。湖面は後方散乱が少ない均一な暗い部分として見える。後方散乱強度の絶対値と画素間のばらつきが共に小さいことを利用し、QGIS/Orfeo Tool Boxのセグメンテーションによって氷河湖を抽出した。

セグメンテーションの結果、幅100 m程度以上のサイズの氷河湖はほぼすべて抽出できた。一方、小さな氷河湖はセグメンテーションが上手く適応されず、細かく分割された。PALSAR-2データの空間分解能が精度よく氷河抽出するためには重要な要素と考えられる。本発表ではこれに加えて、斜度補正済みデータを用いた場合の抽出精度や広域展開する場合の処理フローについても議論を行う。


参考文献:

Ukita, J., Narama, C., Tadono, T., Yamanokuchi, T., Tomiyama, N., Kawamoto, S., Abe, C., Uda, H., Yabuki, K., Fujita, K., and Nishimura, K.: Glacial lake inventory of Bhutan using ALOS data: methods and preliminary results, Annals of Glaciology, 52(58), pp.65-71, 2011.

Tadono, T. et al, Kawamoto, S., Narama, C., Yamanokuchi, T., Ukita, J., Tomiyama, N., & Yabuki, H.: Development and validation of new glacial lake inventory in the Bhutan Himalayas using ALOS ‘DAICHI’, Global Environmental Research, 16(1), pp.31-40, 2012.

Nagai, H., Ukita, J., Narama, C., Fujita, K., Sakai, A., Tadono, T., Yamanokuchi, T., and Tomiyama, N.: Evaluating the Scale and Potential of GLOF in the Bhutan Himalaya Using a Satellite-Based Integral Glacier-Glacial lake Inventory, Geosciences, 7(77), pp.19, 2017.