15:45 〜 16:00
[SVC39-06] 富士火山,青木ヶ原溶岩中の斜長石集斑晶のEBSE解析:集斑晶形成過程への示唆
キーワード:斜長石、集斑晶、EBSD、マグマ、富士火山、結晶成長
1.はじめに
斜長石は,島弧マグマに最も普遍的な斑晶相であるが,その成長過程でのマグマプロセスの情報を組織的・化学的特徴として記録している.この情報を読み解くためには,我々は斜長石斑晶の成長履歴を知る必要がある.ところで,天然のマグマ中で斜長石はしばしば集斑晶として産する(ことによると,単結晶よりも集斑晶の方が普遍的かもしれない).しかしながら,斜長石集斑晶の形成プロセスに関する我々の理解は未だ乏しい.本研究の目的は,マグマ中に含まれる集斑晶の形成プロセスを明らかにすることである.このために,富士山の玄武岩質溶岩中に含まれる斜長石集斑晶を対象として,偏光顕微鏡およびSEMによる観察とEBSDマッピング解析を行った.
2.サンプルと手法
本研究では,西暦864-866年に富士山北麓で噴出した青木ヶ原溶岩を対象とした.この溶岩はおよそ1.4立方kmの体積を持ち(鈴木ほか,2002),この噴火は富士山で最大級である.この溶岩はおよそ32vol.%の斜長石斑晶を含むが,そのほとんどは集斑晶を形成している.この溶岩について研磨薄片を作製し,偏光顕微鏡およびSEMによる観察とEBSDマッピング解析を行った.
本研究では,同一の結晶方位を示す一続きの領域を“ドメイン”と呼称する.斜長石集斑晶は,複数のドメインから構成される.我々は斜長石集斑晶についてEBSDマッピングを行い,ドメイン境界を同定するとともに,各ドメインのオイラー角を定量した.そして,2つの隣接するドメインのオイラー角から,両者の相対的な結晶方位関係を計算し,回転対称軸の方位と回転角度で表現した.加えて,我々は集斑晶の後方散乱電子(BSE)像観察およびドメイン境界の偏光顕微鏡観察を行った.今回,24個の集斑晶に含まれる1060組のドメインペアについて解析を行った.
3.結果と議論
今回解析した1060ペアのうち,911ペア(86%)は180°の回転角度を示した.これらのペアの回転軸方向は,[100], [010], [001] と [h0l]方向に集中していた.これらのうち,[100], [010], [001]の対称軸を持つものをI型,[h0l]の対称軸を持つものをII型の境界とよぶ.他の149ペア(14%)では,対称軸方向と回転角度に系統性は見られなかった.これらをIII型の境界と呼称する.
I型の境界はしばしば,斜長石の組成累帯構造を横切っており,この境界でメルトや他の結晶の包有物は滅多に見られない.この観察結果と結晶方位的関係から,I型の境界は双晶境界であるといえる.[010]と[001]を対称軸とする境界はそれぞれ,アルバイト双晶およびカールスバット双晶で説明できる.[100]を対称軸とする単独の双晶は存在しないが,この方位関係はアルバイト双晶とカールスバット双晶の組み合わせとして説明できる.この境界は,斜長石単結晶の成長時に形成されたものである.II型の境界は,独立に成長したと考えられる単結晶同士が接合した境界でよく見られる.この境界では,対称軸が(010)面と平衡であり,特に[201]と[102]の方向に集中する.この方位関係は,(010)を接合面とし,[201] または[102]を対称軸とする180°回転で説明される.この方位関係では,(010)面上に結晶格子数個ごとに格子点が重なる超格子的な構造が形成されるため,エネルギー的に比較的安定であると考えられる.この境界は,斜長石が液体のマグマ中に浮かんだ状態で何度も繰り返し衝突し,安定角度で衝突した時に接合したものと考えられる.III型の境界の結晶方位関係はランダムである.また,II型同様,独立に成長したと考えられる単結晶同士が接合した境界でよく見られる.加えて,この境界ではメルトや他の結晶相の包有物がよく見られる.これらのことから,この境界は,斜長石が沈積した時の方位関係のまま接合したものと考えられる.大きな集斑晶では,これらの3種類の境界すべてが混在することから,このような集斑晶は,まず単結晶が成長した後,マグマ中で浮遊時および沈積後に接合して形成されたと考えられる.
以上の結果は,EBSDによるドメイン境界の方位解析が,集斑晶や沈積岩の形成過程を調べるうえで有用な方法であることを示している.
斜長石は,島弧マグマに最も普遍的な斑晶相であるが,その成長過程でのマグマプロセスの情報を組織的・化学的特徴として記録している.この情報を読み解くためには,我々は斜長石斑晶の成長履歴を知る必要がある.ところで,天然のマグマ中で斜長石はしばしば集斑晶として産する(ことによると,単結晶よりも集斑晶の方が普遍的かもしれない).しかしながら,斜長石集斑晶の形成プロセスに関する我々の理解は未だ乏しい.本研究の目的は,マグマ中に含まれる集斑晶の形成プロセスを明らかにすることである.このために,富士山の玄武岩質溶岩中に含まれる斜長石集斑晶を対象として,偏光顕微鏡およびSEMによる観察とEBSDマッピング解析を行った.
2.サンプルと手法
本研究では,西暦864-866年に富士山北麓で噴出した青木ヶ原溶岩を対象とした.この溶岩はおよそ1.4立方kmの体積を持ち(鈴木ほか,2002),この噴火は富士山で最大級である.この溶岩はおよそ32vol.%の斜長石斑晶を含むが,そのほとんどは集斑晶を形成している.この溶岩について研磨薄片を作製し,偏光顕微鏡およびSEMによる観察とEBSDマッピング解析を行った.
本研究では,同一の結晶方位を示す一続きの領域を“ドメイン”と呼称する.斜長石集斑晶は,複数のドメインから構成される.我々は斜長石集斑晶についてEBSDマッピングを行い,ドメイン境界を同定するとともに,各ドメインのオイラー角を定量した.そして,2つの隣接するドメインのオイラー角から,両者の相対的な結晶方位関係を計算し,回転対称軸の方位と回転角度で表現した.加えて,我々は集斑晶の後方散乱電子(BSE)像観察およびドメイン境界の偏光顕微鏡観察を行った.今回,24個の集斑晶に含まれる1060組のドメインペアについて解析を行った.
3.結果と議論
今回解析した1060ペアのうち,911ペア(86%)は180°の回転角度を示した.これらのペアの回転軸方向は,[100], [010], [001] と [h0l]方向に集中していた.これらのうち,[100], [010], [001]の対称軸を持つものをI型,[h0l]の対称軸を持つものをII型の境界とよぶ.他の149ペア(14%)では,対称軸方向と回転角度に系統性は見られなかった.これらをIII型の境界と呼称する.
I型の境界はしばしば,斜長石の組成累帯構造を横切っており,この境界でメルトや他の結晶の包有物は滅多に見られない.この観察結果と結晶方位的関係から,I型の境界は双晶境界であるといえる.[010]と[001]を対称軸とする境界はそれぞれ,アルバイト双晶およびカールスバット双晶で説明できる.[100]を対称軸とする単独の双晶は存在しないが,この方位関係はアルバイト双晶とカールスバット双晶の組み合わせとして説明できる.この境界は,斜長石単結晶の成長時に形成されたものである.II型の境界は,独立に成長したと考えられる単結晶同士が接合した境界でよく見られる.この境界では,対称軸が(010)面と平衡であり,特に[201]と[102]の方向に集中する.この方位関係は,(010)を接合面とし,[201] または[102]を対称軸とする180°回転で説明される.この方位関係では,(010)面上に結晶格子数個ごとに格子点が重なる超格子的な構造が形成されるため,エネルギー的に比較的安定であると考えられる.この境界は,斜長石が液体のマグマ中に浮かんだ状態で何度も繰り返し衝突し,安定角度で衝突した時に接合したものと考えられる.III型の境界の結晶方位関係はランダムである.また,II型同様,独立に成長したと考えられる単結晶同士が接合した境界でよく見られる.加えて,この境界ではメルトや他の結晶相の包有物がよく見られる.これらのことから,この境界は,斜長石が沈積した時の方位関係のまま接合したものと考えられる.大きな集斑晶では,これらの3種類の境界すべてが混在することから,このような集斑晶は,まず単結晶が成長した後,マグマ中で浮遊時および沈積後に接合して形成されたと考えられる.
以上の結果は,EBSDによるドメイン境界の方位解析が,集斑晶や沈積岩の形成過程を調べるうえで有用な方法であることを示している.