日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC39] Pre-eruptive magmatic processes: petrologic analyses, experimental simulations and dynamics modeling

2018年5月24日(木) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:中村 美千彦(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、東宮 昭彦(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、Shanaka L de Silva (共同)、Costa Fidel(Earth Observatory of Singapore, Nanynag Technological University)

[SVC39-P08] 伊豆大島火山1986年噴火の斜長石中のメルト包有物:プレ噴火プロセスへの示唆

*種田 凌也1石橋 秀巳2三輪 学央3外西 奈津美4安田 敦4 (1.静岡大学大学院総合科学技術研究科、2.静岡大学理学部、3.防災科学技術研究所、4.東京大学地震研究所)

キーワード:伊豆大島火山、メルト包有物、プレ噴火プロセス、斜長石、マグマ混合

伊豆大島火山は伊豆-マリアナ弧の火山フロント上に位置する活動的な火山である.本研究対象である1986年の噴火は,伊豆大島火山で最新のマグマ噴火である.この噴火は11月15日より山頂火口(A火口)からのストロンボリ式噴火から始まり,20日には一旦静穏化したが,21日16時頃よりカルデラ内に新しい割れ目火口群(B火口群)が開き,爆発的な割れ目噴火を開始した.さらに,B火口噴火発生のおよそ20分後に,外輪山に割れ目火口群(C火口群)が開き,割れ目噴火を開始した(遠藤ほか, 1988).A火口噴火の噴出物は玄武岩質であるのに対し,B・C火口噴火の噴出物は安山岩質であり,両者の化学組成が明瞭に異なることから,AとB・Cマグマの供給源が異なっていたと考えられている(例えば,荒牧・藤井, 1988).しかし,これらのマグマを生じたプレ噴火プロセスの詳細については未だ理解不十分である.そこで本研究では,伊豆大島火山1986年AおよびB火口噴火で噴出したスコリアについて,全岩,斜長石斑晶とそのメルト包有物および石基ガラスの化学組成分析を行い,AおよびBマグマのプレ噴火プロセスについて検討した.
【研究手法】本研究では,伊豆大島火山のカルデラ内で採取したAおよびB火口由来のスコリアを研究試料として用い,これらについて全岩化学組成分析と,斜長石斑晶およびこれに含まれるメルト包有物,石基ガラスの化学組成分析を行った.スコリアの全岩化学組成の分析には,東京大学地震研究所のXRF(RIGAKU ZCX primus 2)を使用し,斜長石および斜長石中に含まれるメルト包有物,石基ガラスの化学分析には,東京大学地震研究所のEPMA(JEOL8800R)を使用した.
【結果】A,Bスコリアの全岩主成分化学組成は,先行研究で報告された値と一致した.A,Bスコリア間で,全岩微量化学組成に差異は見られなかった.A,B斜長石の間で,An#[=100Ca/(Ca+Na)]の幅はほぼ同等であり,FeO,MgO,K2O含有量についてもほぼ一致した値を示した.A斜長石中のメルト包有物は,SiO2含有量が約55~57wt.%の安山岩質であり,玄武岩質のものは確認できなかった.一方,B斜長石中のメルト包有物は,SiO2含有量が約50~60wt.%の玄武岩質~安山岩質であり,幅広い組成バリエーションが見られた.さらに,B斜長石中のメルト包有物には,硫黄に富み,SiO2に乏しいメルト(SO3~0.12-0.3wt.%,SiO2~49-53wt.%)と,硫黄に乏しく,SiO2に富むメルト(SO3<0.12wt.%,SiO2~53-60wt.%)が認められた.B斜長石中のメルト包有物の主成分元素について多変量解析を行った結果,その幅広い組成変化は,玄武岩質と安山岩質の2つのメルト端成分の混合とホスト斜長石の成長により説明でき,A,Bスコリアの石基ガラスとA斜長石中のメルト包有物も,この2成分メルト混合で説明できることがわかった.
【考察】A,Bスコリア間で全岩微量元素組成がほぼ一致することから,A,Bマグマは同一の親マグマ起源であると考えられる.A,B斜長石の間で化学組成がほぼ一致することと,A斜長石中のメルト包有物の化学組成が,B斜長石中のメルト包有物の化学組成範囲内に含まれることから,A斜長石とB斜長石は同一起源であると考えられる.さらに,A斜長石中のメルト包有物には,Aスコリアの石基ガラスと異なる組成を示すものがある.これらの事実から,Aマグマ中の斜長石が,Bマグマ溜まり内で形成されたものであることが示唆される.これは,親マグマが火道内を上昇する際にBマグマ溜まりのマッシュ部分に貫入し,B斜長石を取り込んだためであると考えられる.したがって,Aマグマは,親マグマ中にB斜長石および粒間メルトを取り込んだことで形成され,この際に発生した過剰圧により,B火口噴火がトリガーされた可能性がある.
本研究では,Sに富みSiO2に乏しいメルトが,B斜長石中のメルト包有物として複数見つかった.これらのメルトは,他のメルト包有物と比べて明らかにSに富むことから,より深部のマグマ溜まり内で斜長石に捕獲されたものと考えられる.Bマグマ中にこのメルト包有物が見られたことは,Bマグマに深部マグマ溜まりからマグマが供給されていたことを示唆する.1986年噴出物中のメルト組成が,このSに富むメルトとB火口由来の安山岩メルトとの混合で説明できることから,Bマグマは,深部メルトの供給・マグマ混合と結晶分化作用を繰り返して形成されたと考えられる.