日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC40] 火山防災の基礎と応用

2018年5月24日(木) 13:45 〜 15:15 A04 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、石峯 康浩(鹿児島大学地域防災教育研究センター、共同)、久保 智弘(防災科学技術研究所)、座長:吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、久保 智弘(防災科学技術研究所)

15:00 〜 15:15

[SVC40-06] 調査結果を基にした火山ハザードマップ作成事業のあらまし

*荒井 健一1及川 輝樹2 (1.アジア航測株式会社、2.国立研究開発法人産業技術総合研究所)

キーワード:火山防災協議会、ハザードマップ、噴火履歴調査、活火山

1.はじめに
2015年の活火山法改正をきっかけとして各地で火山ハザードマップの新規作成や見直しが進められている.国内火山ハザードマップ作成の変遷や火山防災協議会に求められる役割については田島(2017)に詳しいが,実際に複数行政組織からなる火山防災協議会がどのように火山ハザードマップ作成事業を進めていくべきかの参考として乗鞍岳火山防災協議会の事例を紹介する.

2.乗鞍岳火山防災協議会における事業実施の流れ
2017年3月に乗鞍岳火山防災協議会が乗鞍岳火山ハザードマップを公表した.防災行政が主体的に関わり,このために実施した噴火履歴調査結果を基に作成したものである.2015年に協議会メンバーで乗鞍岳の現地確認した際に,火山専門家から想定火口の設定や噴火シナリオ作成に関する課題を聞いた防災行政担当者らは,避難計画策定や住民・観光事業者への説明等の後工程のために,早々に目的に応じた調査実施を企画して予算確保をはかった.事務職を基本とする防災行政担当者がみづからネジリ鎌片手に調査したわけではないが,必要な成果をイメージした業務仕様を考えて予算確保し,火山防災分野では実績の少ないプロポーザル方式により委託業者を選定した.業者に求めた要件は,類似調査・業務の実績,実施内容に対する取り組み方針や課題に対する技術提案であり,提案のプレゼンテーション時には火山専門家も審査に加わった.業者選定後も現地調査に同行して噴火堆積物の見方や集客施設と火口の位置関係の確認等を実施した.

3.蓄積されたノウハウや砂防技術も活用
ハザードマップ作成の前提となる噴火シナリオを合目的的な調査で作成した後,影響範囲の想定を火山防災マップ作成指針(内閣府ら,2013)にそって整理して,解説資料とともにまとめた.これまで自治体名で発行・公表されてきた火山ハザードマップは,土木・砂防事業の一環で実施されたシミュレーション結果や既往研究成果を引用して作成するケースが多かった.土木・砂防事業では目的のために噴火等の履歴調査を行うことも珍しくないが,多くの場合その内容は中間成果として表に出てこない.また砂防えん堤等の防災施設の整備必要性等を見据えて検討されるため,前提条件の考え方が必ずしも避難計画向けとは言えない.しかし,活火山法改正で火山防災協議会の構成員に地方整備局が含まれたことから,砂防事業において蓄積された高度な技術やノウハウも有効活用することが可能になった.今回の乗鞍岳のケースでは,北陸地方整備局松本砂防事務所が,協議会で検討した条件に基づいて火砕流や融雪型火山泥流等の土砂災害予想区域図を作成してフィードバックするといった連携により,考え方や前提条件も整合したうえで双方の事業を進めていく道筋ができた.

4.そのほか
この数年,乗鞍岳のほかにも,栗駒山(岩手・秋田県・宮城県)や浅間山(群馬県・長野県)などでも同様に火山防災協議会主導による火山ハザードマップ作成・見直しの事業が進められている.今回の乗鞍岳火山ハザードマップ作成事業を通じて,改めて火山ハザードマップが火山専門家による研究成果を社会へ還元するわかりやすいツールのひとつであることを認識した.この動きが一過性のもので終わらず,火山専門家と地域が連携して取り組んでいくことが重要と考える.