日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC41] 活動的火山

2018年5月21日(月) 13:45 〜 15:15 コンベンションホールA(CH-A) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、青木 陽介(東京大学地震研究所、共同)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、大倉 敬宏(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:西村 太志前野 深

14:15 〜 14:30

[SVC41-03] 箱根火山深部低周波地震と火山活動との関係

*行竹 洋平1安部 祐希1 (1.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:深部低周波地震、火山活動、箱根火山

1.はじめに
火山周辺の深部低周波地震(以下、DLF)はマグマ性流体の運動に起因した現象と考えられている.例えば、Nakamichi et al. (2003)により岩手山で発生したDLFについて実体波の振幅比からモーメントテンソル解が推定され、ダブルカップル成分だけではなく開口クラック変動を示す成分も含まれているためマグマ性流体の関与が示唆された.一方で、DLFと山体膨張などの地殻変動や浅部の構造性地震(以下、VT地震)及び地表面現象などの火山活動との関係は必ずしも明瞭ではない.原田ほか (2010)では富士山及び箱根で発生するDLF活動について気象庁カタログに基づき地殻変動との関係を検証し、箱根で発生するDLFと地殻変動との明瞭な相関は認められないと結論付けている.ただし、立ち上がりが不明瞭なDLF波形が地動ノイズに埋もれ、従来の手法では多くを取りこぼしている可能性がある.したがって、既存の震源カタログに基づいた議論ではDLFとVT地震や地殻変動等との関連性を厳密に検証することは困難である.そこで本研究ではMatched Filter(MF)法(例えば、Peng and Zhao, 2009)を用い箱根火山で発生するDLFの震源カタログを作成し、火山活動との関係を検証した.

2.データ及び手法
MF法は連続波形記録からS/Nのよいテンプレート地震波形とコヒーレントなシグナルを相互相関処理により検出する.本研究では、DLF震央域周辺にある11箇所の定常観測点(神奈川温地研5点、防災科研Hi-net 6点)の連続波形記録を使用し、データが利用可能な2001年8月から2017年1月までを解析対象とした.テンプレート地震として同期間に気象庁一元化カタログに記載されているMjma0.5以上のDLF94イベントを用いた.テンプレート地震波形及び連続波形記録に1-5Hzのバンドパスフィルタを施し20Hzにダウンサンプリングし、全観測点波形記録の各テンプレート地震波形に対する相関係数をテンプレート地震の理論走時を差し引いた時刻でスタックした.イベント検出基準には相関係数の中央絶対偏差(Median Absolute Deviation)の9倍を用い、スタックした相関係数がこの基準を超える時刻を有意なイベントと見なした.さらにMF法で検知された震源カタログに対して、200イベント毎にb値を求めその時間変化を推定した.

3.結果
MF法により解析対象期間で約15,000イベントのDLFが検出された.これは同期間に気象庁一元化カタログに記載されているDLFの37倍にあたる.2006年、2013年及び2015年にDLFの発生数の急増が確認され、ほぼ同時期に山体膨張を示す地殻変動及び火山浅部でのVT地震の活発化が観測された.各現象の詳細な時系列の比較をすると、いずれの期間においてもDLFの増加が最初に始まり、山体膨張を示す基線長の伸びの開始、浅部のVT地震の活発化に推移しているように見える.またb値の時間変化に着目すると、DLFの活発化に伴いb値が1.2を超える高い値になることが分かった.高b値の地震活動については、注水試験時に誘発される地震(例えば、Maxwell et al. 2009)や、群発地震活動で推定されており(例えば、Yoshida et al. 2017)、間隙流体圧の上昇を反映している可能性がある.DLFの発生域は火山下深さ20~25kmの範囲にあり、深さ10km付近にはマグマを示唆する低速度域(Yukutake et al. 2015)や地殻変動の圧力源が存在する.深さ20km付近においてマグマ性流体圧の上昇に伴いDLFの活発化及びb値の増加が起き、その影響が浅部に伝搬し深さ10km付近のマグマ溜りが増圧することにより地殻変動が生じ、その後VT地震の活発化に至った可能性が示唆される.一方で、上記以外の期間でも(2001年~2004年にかけて、2005年、2010年及び2011年)DLFの活発化及びb値の増加が検出されたが、VT地震の活発化や地殻変動は観測されていない.この結果は、深さ20km付近のマグマ性流体圧の上昇が起きても、周辺領域の何らかの要因により浅部マグマ溜りへの増圧に至らないことを示唆しているのかもしれない.

謝辞
本研究では国立研究開発法人防災科学技術研究所Hi-netの地震波形データ、及び国土地理院Geo-netのGNSSデータを使用させていただきました.b値の推定には、zmapコード(Wiemer, 2001)を使用しました.