日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC41] 活動的火山

2018年5月22日(火) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールA(CH-A) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、青木 陽介(東京大学地震研究所、共同)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、大倉 敬宏(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:青木 陽介前田 裕太(名古屋大学)

10:00 〜 10:15

[SVC41-17] クラックモデルに基づく周波数解析から推定されるLPイベントの励起過程

*田口 貴美子1熊谷 博之1前田 裕太1Torres Roberto2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.コロンビア地質調査所)

火山活動の活発化に伴い観測される地震のうち、long-period (LP)イベントは熱水割れ目などの振動体中における流体の固有振動により発生すると考えられている。よってLPイベントの解析による振動体サイズや流体特性、およびその励起過程の推定は、火山の下にある流体の状態を把握し、噴火過程を解明するうえで重要である。振動体のモデルとしてはクラックモデル(Chouet, J. Geophys. Res., 1986)が提唱されており、振動体サイズおよび流体特性はこのモデルの固有周波数と観測されたLPイベントのスペクトルピーク周波数の比較により推定されてきた。この比較は最近Maeda and Kumagai (Geophys. J. Int., 2017) により提案されたクラックモデルの固有周波数の解析式を用いることで、系統的かつ容易に行うことができるようになった。Taguchi et al. (IAVCEI meeting, 2017)ではこの解析式を用いた手法により、草津白根山(群馬県)およびガレラス山(コロンビア)で発生したLPイベントの解析を行い、その結果先行研究では困難だったクラックサイズと流体特性のパラメータの同時推定が可能であることを示した。本研究ではさらに両火山で発生したLPイベントの解析を行い、得られたパラメータ間の関係から流体の状態の変化や励起過程について調べた。
 草津白根山については1992年8月から1993年1月、ガレラス山については1993年1月6日から10日にかけて発生したLPイベントを解析した。草津白根山では熱水活動、ガレラス山ではマグマ噴火活動に関連したイベントであることから、クラック内流体としてはそれぞれミスト状ガス、ダスト状ガスを仮定した。その結果、両火山に共通して以下の特徴が見られた。(1)クラック体積(V)および中の水蒸気質量の割合(n)はともに時間変化を示し、Vは10-1 m3から104 m3nは10-2から約1の範囲の値を取る。また、Vが大きいほどnおよびクラックへ供給された水蒸気質量も大きい。(2)ミストおよびダスト体積はクラックの厚さ(d)と、長さ(L)もしくは幅(W)の積(LdまたはWd)に比例して大きくなる。(1)はクラック内に供給された水蒸気がマグマからの脱ガスによるものと仮定すると、マグマ体積が大きいほどクラック体積も大きくなることを示す。(2)はクラック内でミストやダストのクラック長さあるいは幅に占める割合が一定であることを示す。以上の結果を解釈すると、LPイベントの発生過程として以下のことが考えられる。まず草津白根山については、マグマの対流に伴い水蒸気の脱ガスが起き、このマグマ体積が大きいほど、脱ガスする水蒸気量も増加した。この水蒸気は割れ目を通り、山頂から浅いところにある水平な既存割れ目へ供給された。これにより割れ目が開き、供給された水蒸気は割れ目まわりの帯水層により冷却された。冷却は割れ目の端から起こり、水蒸気が一定長さまで冷却されたところで凝縮が起き、ミストが生成した。一方ガレラス山では対流により発泡したマグマが上昇し、火道の一部である鉛直な既存割れ目へ貫入した。このマグマ体積が大きいほど、貫入時に含まれる水蒸気量も大きくなる。このマグマが下から一定高さまで貫入したところで割れ目が開き、その圧力低下により破砕が生じた。これによりダストが生成された。こうした水蒸気の凝縮および破砕に伴う急激な体積変化によりクラック固有振動が励起され、LPイベントが発生した。さらに凝縮による体積減少は草津白根山での観測波形の初動が引きであることと一致する。鉛直な既存割れ目へのマグマ貫入・破砕は、ガレラス山でのイベント発生後に地表の割れ目から火山灰を含むガスの放出量が増加したことと、観測波形の初動が押しであることと整合的である。
 以上のように本研究の結果は、クラック固有振動の解析式を用いた手法が水蒸気の脱ガスに関与したマグマやミスト・ダストの体積の推定を行い、火山の下における流体の状態把握やLPイベントの励起過程理解に役立つことを示している。