14:00 〜 14:15
[SVC41-26] 十勝岳火口域周辺の三次元比抵抗構造とその時間変化
キーワード:比抵抗構造、3次元モデリング、火山浅部熱水系
十勝岳は北海道中央部に位置する活火山である.20世紀以降,マグマ噴火が1926年,1962年,1988-89年に発生し,水蒸気爆発も度々発生している.1988-89年の噴火以降も62-2火口や大正火口から活発な噴気活動があり,近年では振子沢噴気孔群の拡大が見られる.また,2006年以降,火口域地下浅部の膨張を示唆する地盤変動や消磁を示唆する全磁力変化が観測されている.
本研究では,これらの変動を引き起こしているであろう地下浅部の構造を明らかにするために, AMT法を使用し,火口域周辺における浅部比抵抗構造探査を行った. 2009,2014,2015,2016年にかけて,延べ22地点で,電場水平二成分,磁場は鉛直を含む三成分の時系列データを取得した.取得したデータには火口域から北西におよそ3km離れた地点を参照点としたリモートリファレンス処理を施し,10,400-0.35 Hzの応答関数を計算した.そのうち一地点は繰り返し観測点として,全ての年に観測を行い,比抵抗構造の時間変化の有無を確認した.
観測年ごとの繰り返し観測点の応答関数から,2014年から2015年にかけて,10Hz以降の低周波帯域で見かけ比抵抗が増加し,位相が低下するような変化が得られた.これは地下数100m程度の深さにある領域が高比抵抗化したことを示唆する.一方で,2009年から2014年,2015年から2016年には大きな変化は見られなかった.このことから,2014年から2015年にかけてのみ,比抵抗構造が変化した可能性がある.ただし,本探査の繰り返し観測点とは別の地点で,道総研地質研が2016年に実施した十勝岳における広域のMT探査(高橋・他,2017)と,それとほぼ同じ地点で2009年に測定した応答関数を比較すると,ほとんど変化がなく,繰り返し観測点で捉えられた比抵抗構造の変化の範囲は限定的であると考えられる.
火山における比抵抗構造への地形の影響を考慮するために,地形表現が可能なModEM(Egbert and Kelbert, 2012)を用いて,測定周波数範囲内の13周波数を2009年から2016年までの全てのデータから取り出し,三次元インバージョンを行った.繰り返し観測点のデータとしては変化が起こる前と考えられる2014年のものを使用した.105回の反復計算を行った間に,Normalized RMS(エラーで規格化したRMS)は 11.8から3.89に低下し,概ね全ての観測点で観測値を説明する三次元比抵抗構造が得られた.得られた比抵抗構造は,以下のような特徴を有している.(1)極浅部(地表からおよそ100m深まで)は100 Ωm程度の高比抵抗な層に覆われている,(2) 火口域浅部(100-400 m深まで)には0.5-1 Ωm 程度の低比抵抗な領域が水平およそ800mの範囲に広がっている,(3)この低比抵抗な領域は,62-2火口直下から北東に分布するものとグラウンド火口直下から北東方向に伸びる二つの低比抵抗域によって構成されているように見える.推定された低比抵抗域が存在する深さは,地盤変動の膨張源(火口直下数100 m;高橋・他,2017),全磁力の消磁源(150 m;橋本・他,2010)とほぼ一致しており,この領域に熱水が存在する可能性が示唆される.また,この低比抵抗域が,二つの低比抵抗域によって構成されていることは,岡本・他(2015)が指摘した火口ごとの火山ガス組成の違いの原因に何らかの示唆を与えるかもしれない.ただし,低比抵抗領域の広がりや比抵抗値の絶対値はインバージョンの設定によって変化する可能性があり,今後の検討が必要である.
2014年から2015年にかけての繰り返し観測点の応答関数の変化を説明するために, 2015年の繰り返し観測点のデータを用いて,再度,三次元インバージョンを行った.その結果,繰り返し観測点直下の低比抵抗領域が0.5Ωmから数Ωmへとやや高抵抗化した構造が得られた.しかし,繰り返し観測点のデータをよく再現するためには,より高比抵抗な領域が必要であることを示唆する計算結果であった.2014年から2015年にかけての変化を説明するモデルを構築するためには,入力データの精査も含め,さらなる検討を実施する必要がある.
謝辞:本研究では,北海道立総合研究機構の重点研究において実施した電磁探査のデータを使用しました.現地での観測には,秋田藤夫・岡大輔・鈴木隆広(道総研地質研)・道下剛史・藤松淳・長山泰淳(札幌管区気象台)・奥田真央・菅野倖大朗・早川美土里・高田将仁・岩田光義(北海道大学)に参加していただきました.ここに記して感謝いたします.
本研究では,これらの変動を引き起こしているであろう地下浅部の構造を明らかにするために, AMT法を使用し,火口域周辺における浅部比抵抗構造探査を行った. 2009,2014,2015,2016年にかけて,延べ22地点で,電場水平二成分,磁場は鉛直を含む三成分の時系列データを取得した.取得したデータには火口域から北西におよそ3km離れた地点を参照点としたリモートリファレンス処理を施し,10,400-0.35 Hzの応答関数を計算した.そのうち一地点は繰り返し観測点として,全ての年に観測を行い,比抵抗構造の時間変化の有無を確認した.
観測年ごとの繰り返し観測点の応答関数から,2014年から2015年にかけて,10Hz以降の低周波帯域で見かけ比抵抗が増加し,位相が低下するような変化が得られた.これは地下数100m程度の深さにある領域が高比抵抗化したことを示唆する.一方で,2009年から2014年,2015年から2016年には大きな変化は見られなかった.このことから,2014年から2015年にかけてのみ,比抵抗構造が変化した可能性がある.ただし,本探査の繰り返し観測点とは別の地点で,道総研地質研が2016年に実施した十勝岳における広域のMT探査(高橋・他,2017)と,それとほぼ同じ地点で2009年に測定した応答関数を比較すると,ほとんど変化がなく,繰り返し観測点で捉えられた比抵抗構造の変化の範囲は限定的であると考えられる.
火山における比抵抗構造への地形の影響を考慮するために,地形表現が可能なModEM(Egbert and Kelbert, 2012)を用いて,測定周波数範囲内の13周波数を2009年から2016年までの全てのデータから取り出し,三次元インバージョンを行った.繰り返し観測点のデータとしては変化が起こる前と考えられる2014年のものを使用した.105回の反復計算を行った間に,Normalized RMS(エラーで規格化したRMS)は 11.8から3.89に低下し,概ね全ての観測点で観測値を説明する三次元比抵抗構造が得られた.得られた比抵抗構造は,以下のような特徴を有している.(1)極浅部(地表からおよそ100m深まで)は100 Ωm程度の高比抵抗な層に覆われている,(2) 火口域浅部(100-400 m深まで)には0.5-1 Ωm 程度の低比抵抗な領域が水平およそ800mの範囲に広がっている,(3)この低比抵抗な領域は,62-2火口直下から北東に分布するものとグラウンド火口直下から北東方向に伸びる二つの低比抵抗域によって構成されているように見える.推定された低比抵抗域が存在する深さは,地盤変動の膨張源(火口直下数100 m;高橋・他,2017),全磁力の消磁源(150 m;橋本・他,2010)とほぼ一致しており,この領域に熱水が存在する可能性が示唆される.また,この低比抵抗域が,二つの低比抵抗域によって構成されていることは,岡本・他(2015)が指摘した火口ごとの火山ガス組成の違いの原因に何らかの示唆を与えるかもしれない.ただし,低比抵抗領域の広がりや比抵抗値の絶対値はインバージョンの設定によって変化する可能性があり,今後の検討が必要である.
2014年から2015年にかけての繰り返し観測点の応答関数の変化を説明するために, 2015年の繰り返し観測点のデータを用いて,再度,三次元インバージョンを行った.その結果,繰り返し観測点直下の低比抵抗領域が0.5Ωmから数Ωmへとやや高抵抗化した構造が得られた.しかし,繰り返し観測点のデータをよく再現するためには,より高比抵抗な領域が必要であることを示唆する計算結果であった.2014年から2015年にかけての変化を説明するモデルを構築するためには,入力データの精査も含め,さらなる検討を実施する必要がある.
謝辞:本研究では,北海道立総合研究機構の重点研究において実施した電磁探査のデータを使用しました.現地での観測には,秋田藤夫・岡大輔・鈴木隆広(道総研地質研)・道下剛史・藤松淳・長山泰淳(札幌管区気象台)・奥田真央・菅野倖大朗・早川美土里・高田将仁・岩田光義(北海道大学)に参加していただきました.ここに記して感謝いたします.