日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC41] 活動的火山

2018年5月22日(火) 13:45 〜 15:15 コンベンションホールA(CH-A) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、青木 陽介(東京大学地震研究所、共同)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、大倉 敬宏(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:金子 隆之嶋野 岳人

14:45 〜 15:00

[SVC41-29] 薩摩硫黄島での火山体掘削調査:鬼界アカホヤ噴火(K-Ah噴火)の噴火準備過程解明を目指して

*中川 光弘1前野 深2松本 亜希子1 (1.北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門地球惑星システム科学講座、2.東京大学地震研究所)

キーワード:鬼界カルデラ、ボーリング、後カルデラ火山、高マグネシウム安山岩

カルデラを形成するような超巨大噴火は低頻度であるが,起こった場合には未曾有の大災害をもたらすことは明らかである.しかしながら近代火山学は超巨大噴火を経験しておらず,その前兆現象あるいは先行噴火はどのようなものか,またそれらは地下でのどのようなマグマプロセスを反映しているのかについては十分には理解されていない.その理解のためには,過去の超巨大噴火および先行噴火に対して地質学的および物質科学的手法によって,それらの詳細な噴火推移とマグマ変遷を明らかにすることが重要である.約7300年前の鬼界アカホヤ噴火(K-Ah)は日本で最も新しい超巨大噴火であり,カルデラ近傍での詳細な地質調査により,その噴火推移は明らかになっている(Maeno and Taniguchi, 2007).また,K-Ah噴火に先行して,流紋岩質な長浜溶岩が流出した(以下,長浜噴火と呼ぶ)ことも明らかになっている.しかしながら,これまで長浜溶岩の下面は確認されておらず,長浜噴火の初期噴火の様式やその推移などが明らかになっていない.

 そこで長浜噴火の詳細を明らかにするために,長浜溶岩の下面まで到達することを目標に,2015年度に薩摩硫黄島でのボーリング掘削を実施した.長浜溶岩の層厚は,海底地形などを考えると200m以上と考えられるが,それを超える深度のボーリングは予算の関係で不可能であった.そこで鬼界カルデラ内でのボーリングを実施することとした.島の西部では長浜溶岩にカルデラ壁が形成されている.一般にはカルデラ壁は急崖を呈しており,カルデラ形成後に崩落して拡大している場合が多い.従って,長浜溶岩が露出するカルデラ壁に近い所で掘削を行えば,崖錐堆積物の下位に長浜溶岩が存在し,掘削地点(標高数m)でのカルデラ壁の高さ(100m以上)を考えると,100m前後の掘削で十分に長浜溶岩の下面に到達する可能性が高いと考えた.

 掘削は140mの深度まで実施され、コアが回収された.その結果,崖錐堆積物は薄く(39mまで),深度39~140mまで長浜溶岩ではなく,複数の未知溶岩流が回収された.これらは層序的にはK-Ah噴火後の活動,つまり後カルデラ期の産物と考えられる.薩摩硫黄島では後カルデラ期に,まず古期硫黄岳の活動があり、その後稲村岳が主として玄武岩質マグマを噴出した後,新期硫黄岳がデイサイト質マグマを噴出していることが知られていた.コアから回収された溶岩は深部では玄武岩,浅部では安山岩であり,その全岩化学組成は表層で認められる稲村岳や硫黄岳の噴出物とは異なるものであった.玄武岩質溶岩は稲村岳噴出物と類似しているが,MgO量やP2O5量で識別できる.一方,安山岩質溶岩の示すSiO2=59~61%はこれまで後カルデラ火山では認められていない.またそれらはSr同位体比が0.7042~0.7054と多様である点,さらにMgO=5%と高い試料が存在する点で特異である.

 今回の掘削では当初の目的を達成することはできなかったが,予想外の成果があった.まずカルデラの構造では,現在の鬼界カルデラ壁は,少なくとも薩摩硫黄島の西部では,崩落による後退はあまり進行していないこと,またカルデラ底は海面下140mよりも深部にあることになることが明らかになった.さらに後カルデラ火山の活動では,現在の稲村岳や硫黄岳とは別の,表層には露出していない後カルデラ火山体があったことが明らかになった.特に既知のものとは大きく異なる安山岩質マグマを見出したことで,後カルデラ火山のマグマの進化を考える上では重要と考えられる.このように,大きな成果はあったものの,昨年度の掘削調査では長浜噴火の全貌を明らかにすることは出来なかった.そのため我々は,今年度から来年度にかけて300m深度の掘削を新たに実施する予定である.

(引用文献)

Maeno, F. and Taniguchi, M. (2007) J. Volcanol. Geotherm. Res., 167, 212-238.