15:30 〜 15:45
[SVC41-31] 2017年8月桜島溶岩噴泉活動に伴う地震活動及び地盤変動
キーワード:桜島、溶岩噴泉
1.はじめに
桜島火山の昭和火口の噴火活動は2006年6月に58年ぶりに再会し,2009年の後半から2015年6月までブルカノ式噴火が年間1000回のペースで頻発した.2015年の後半以降は,2015年8月15日に急速なマグマ貫入イベントがあったものの噴火活動は低調であり,ブルカノ式噴火は2015年7月~12月は 回,2016年 回,2017年は 回しか発生していない.その中で,2017年8月22日の夜から翌朝にかけて発生した溶岩噴泉活動は特筆されるものである.溶岩噴泉とは溶岩片を連続的に噴出する噴火現象であり,玄武岩質マグマが噴出するハワイや伊豆大島ではよく知られているが,安山岩質火山である桜島では頻度は高くない.南岳の噴火活動が活発であった1980年代にはしばしば溶岩噴泉が確認されている.溶岩噴泉はBL型地震の群発現象を伴い,火口方向が沈降する傾斜変化及び収縮ひずみが観測される.新鮮なマグマが火道最上部まで上昇し,減圧発泡を起こしている現象と解釈される.溶岩噴泉後には火口底に溶岩ドームが形成されており,溶岩ドーム下に推定されるガス溜まりの膨張と収縮は,その後に発生するブルカノ式噴火の特徴である火山岩塊の遠方放出と強い空振の発生原因である.
2.2017年溶岩噴泉に至る火山活動推移
2016年7月26日以降,昭和火口において噴火は発生しなかったが,2017年3月25日に南岳において噴火が発生した.2017年においても一連の噴火活動期に前駆して中央火口丘側の地盤の隆起および膨張が観測された.4月26日~6月上旬まで噴火が頻発したが,それに前駆して4月11日から地盤の膨張が検知された.
7月下旬から中央火口丘側の地盤の隆起と膨張が再び検出された.8月11日から昭和火口において噴火活動が始まり,8月20日まで続いた.この噴火活動期の火山灰は発泡度が高いことが知られている(産業技術総合研究所,第139回火山噴火予知連絡会資料).この噴火活動期においても依然として地盤の膨張は続き,さらに,8月22日に入って相村観測坑道におけるひずみの膨張率が増加した.
3.溶岩噴泉活動の推移
溶岩噴泉の活動の推移を図1に示す.8月22日の22時ごろから,昭和火口において溶岩噴泉が認められるようになった.はじめは,昭和火口の火口縁をわずかに超える程度であったが,徐々に溶岩噴泉の高度は増加し,23日の3-4時ごろには火口からの高度200mに達するようになった.溶岩噴泉活動に伴い,1-3Hzの周波数が卓越する火山性微動と最大1Pa程度の空気振動が連続的に観測された.朝になって明るくなると溶岩噴泉活動を目視することはできなくなったが,火山性微動と空気振動から溶岩噴泉活動は23日の10時頃まで続き,それらの振幅の変化から活動のピークは4時から8時ごろであったと考えられる.
溶岩噴泉活動に伴い地盤の収縮も観測された.収縮が始まったのは,溶岩噴泉の開始とほぼ同時,収縮が停止したのは23日の10時ごろであり,地盤の収縮は溶岩噴泉活動に対応している(図1).ハルタ山観測坑道(南岳から約2.7km)の傾斜及びひずみ変化量から球状圧力源の深度は5.8km,体積変化量は19万m3と見積もられる.溶岩噴泉活動は12時間続いているので,噴出率しては約40万m3/日となり,雲仙普賢岳や西之島の溶岩噴出率と同程度と考えられる.2015年の前半はブルカノ式噴火が頻発し,昭和火口底に溶岩ドームが現れたが,当時のマグマ噴出率2万m3よりも1桁大きい.
2017年8月の溶岩噴泉活動を南岳活動の溶岩噴泉活動と比較すると,溶岩片の到達高度は200mとほぼ同程度であるものの.溶岩噴泉活動に伴う火山性微動や空気振動の振幅は南岳活動期の溶岩噴泉の方が大きい.一方,2017年8月の昭和火口における溶岩噴泉活動は約12時間継続しており,南岳活動期のものより長い.
4.溶岩噴泉後のchugging
連続的な溶岩噴泉に続き,間欠的な噴火活動が繰り返された.気象庁により最初に爆発と認識されたイベントは23日の19:20に発生したものであるが,それ以前にも10:54以降,数回にわたり,低周波地震と10Pa以上の空振を伴う噴火が発生している.これらのイベントは火山灰放出量が少なく噴煙高度も低いために噴火と定義されなかったものと思われる.19:20の爆発は,夜間になって最初のイベントであり,火山岩塊が約1kmの距離まで飛散したことが確認できた.間欠的な爆発の空振振幅は10~30Paであり,昭和火口において発生するブルカノ式噴火としては空振振幅が小さいが,溶岩噴泉活動に比べると1桁大きい.
この間欠的な爆発活動に特徴的なことは,噴火発生後にハーモニックな振動が火山性微動と空気振動に現れることである.19:20の爆発の例ではイベントの開始から2分間は1.6Hzと2.2Hzにピークが現れ,3~6分は1.6Hzのピークが卓越した.1.5分程度の停止の後,1.3Hzにピークをもつ震動が約9分間継続した.この種のイベントはchuggingと呼ばれるもので,Karymsky,Sangay火山など玄武岩質安山岩~安山岩質火山において知られている(Johnson and Lee, 2000).Chuggingはインパルシブなガス放出の繰り返しで,火道を上昇するガス流に対して火口内にたまった噴出物が圧力鍋の調圧弁の役割を果たすと考えられている.19:20の爆発では,インパルシブな音を繰り返し聞くことができ,この音は間欠的な噴石の放出に対応していることが確かめられた.
桜島のブルカノ式噴火では,火道最上部のplugを完全に破壊してしまう強いものがほとんどであるが,稀にブルカノ式噴火後にハーモニック微動が観測されることがあり,不十分なplugの破壊がchuggingを引き起こしていると考えられている(Maryanto et al., 2008).2017年8月23日10:54以降のイベントに伴う地震動,空気振動とも通常の昭和火口におけるブルカノ式噴火より小さく,弱い爆発による不完全なplugの破壊がchuggingを発生させたと考えられる.Chuggingイベントは8月27日まで続いた.
5.2017年の火山活動の評価
2017年8月22日~23日の溶岩噴泉は一時的にマグマの放出率を増加させたイベント言える.一方,それに先行するマグマの貫入率は小さい.また,chuggingイベントの発生は爆発力が低下していることを意味する.
桜島火山の昭和火口の噴火活動は2006年6月に58年ぶりに再会し,2009年の後半から2015年6月までブルカノ式噴火が年間1000回のペースで頻発した.2015年の後半以降は,2015年8月15日に急速なマグマ貫入イベントがあったものの噴火活動は低調であり,ブルカノ式噴火は2015年7月~12月は 回,2016年 回,2017年は 回しか発生していない.その中で,2017年8月22日の夜から翌朝にかけて発生した溶岩噴泉活動は特筆されるものである.溶岩噴泉とは溶岩片を連続的に噴出する噴火現象であり,玄武岩質マグマが噴出するハワイや伊豆大島ではよく知られているが,安山岩質火山である桜島では頻度は高くない.南岳の噴火活動が活発であった1980年代にはしばしば溶岩噴泉が確認されている.溶岩噴泉はBL型地震の群発現象を伴い,火口方向が沈降する傾斜変化及び収縮ひずみが観測される.新鮮なマグマが火道最上部まで上昇し,減圧発泡を起こしている現象と解釈される.溶岩噴泉後には火口底に溶岩ドームが形成されており,溶岩ドーム下に推定されるガス溜まりの膨張と収縮は,その後に発生するブルカノ式噴火の特徴である火山岩塊の遠方放出と強い空振の発生原因である.
2.2017年溶岩噴泉に至る火山活動推移
2016年7月26日以降,昭和火口において噴火は発生しなかったが,2017年3月25日に南岳において噴火が発生した.2017年においても一連の噴火活動期に前駆して中央火口丘側の地盤の隆起および膨張が観測された.4月26日~6月上旬まで噴火が頻発したが,それに前駆して4月11日から地盤の膨張が検知された.
7月下旬から中央火口丘側の地盤の隆起と膨張が再び検出された.8月11日から昭和火口において噴火活動が始まり,8月20日まで続いた.この噴火活動期の火山灰は発泡度が高いことが知られている(産業技術総合研究所,第139回火山噴火予知連絡会資料).この噴火活動期においても依然として地盤の膨張は続き,さらに,8月22日に入って相村観測坑道におけるひずみの膨張率が増加した.
3.溶岩噴泉活動の推移
溶岩噴泉の活動の推移を図1に示す.8月22日の22時ごろから,昭和火口において溶岩噴泉が認められるようになった.はじめは,昭和火口の火口縁をわずかに超える程度であったが,徐々に溶岩噴泉の高度は増加し,23日の3-4時ごろには火口からの高度200mに達するようになった.溶岩噴泉活動に伴い,1-3Hzの周波数が卓越する火山性微動と最大1Pa程度の空気振動が連続的に観測された.朝になって明るくなると溶岩噴泉活動を目視することはできなくなったが,火山性微動と空気振動から溶岩噴泉活動は23日の10時頃まで続き,それらの振幅の変化から活動のピークは4時から8時ごろであったと考えられる.
溶岩噴泉活動に伴い地盤の収縮も観測された.収縮が始まったのは,溶岩噴泉の開始とほぼ同時,収縮が停止したのは23日の10時ごろであり,地盤の収縮は溶岩噴泉活動に対応している(図1).ハルタ山観測坑道(南岳から約2.7km)の傾斜及びひずみ変化量から球状圧力源の深度は5.8km,体積変化量は19万m3と見積もられる.溶岩噴泉活動は12時間続いているので,噴出率しては約40万m3/日となり,雲仙普賢岳や西之島の溶岩噴出率と同程度と考えられる.2015年の前半はブルカノ式噴火が頻発し,昭和火口底に溶岩ドームが現れたが,当時のマグマ噴出率2万m3よりも1桁大きい.
2017年8月の溶岩噴泉活動を南岳活動の溶岩噴泉活動と比較すると,溶岩片の到達高度は200mとほぼ同程度であるものの.溶岩噴泉活動に伴う火山性微動や空気振動の振幅は南岳活動期の溶岩噴泉の方が大きい.一方,2017年8月の昭和火口における溶岩噴泉活動は約12時間継続しており,南岳活動期のものより長い.
4.溶岩噴泉後のchugging
連続的な溶岩噴泉に続き,間欠的な噴火活動が繰り返された.気象庁により最初に爆発と認識されたイベントは23日の19:20に発生したものであるが,それ以前にも10:54以降,数回にわたり,低周波地震と10Pa以上の空振を伴う噴火が発生している.これらのイベントは火山灰放出量が少なく噴煙高度も低いために噴火と定義されなかったものと思われる.19:20の爆発は,夜間になって最初のイベントであり,火山岩塊が約1kmの距離まで飛散したことが確認できた.間欠的な爆発の空振振幅は10~30Paであり,昭和火口において発生するブルカノ式噴火としては空振振幅が小さいが,溶岩噴泉活動に比べると1桁大きい.
この間欠的な爆発活動に特徴的なことは,噴火発生後にハーモニックな振動が火山性微動と空気振動に現れることである.19:20の爆発の例ではイベントの開始から2分間は1.6Hzと2.2Hzにピークが現れ,3~6分は1.6Hzのピークが卓越した.1.5分程度の停止の後,1.3Hzにピークをもつ震動が約9分間継続した.この種のイベントはchuggingと呼ばれるもので,Karymsky,Sangay火山など玄武岩質安山岩~安山岩質火山において知られている(Johnson and Lee, 2000).Chuggingはインパルシブなガス放出の繰り返しで,火道を上昇するガス流に対して火口内にたまった噴出物が圧力鍋の調圧弁の役割を果たすと考えられている.19:20の爆発では,インパルシブな音を繰り返し聞くことができ,この音は間欠的な噴石の放出に対応していることが確かめられた.
桜島のブルカノ式噴火では,火道最上部のplugを完全に破壊してしまう強いものがほとんどであるが,稀にブルカノ式噴火後にハーモニック微動が観測されることがあり,不十分なplugの破壊がchuggingを引き起こしていると考えられている(Maryanto et al., 2008).2017年8月23日10:54以降のイベントに伴う地震動,空気振動とも通常の昭和火口におけるブルカノ式噴火より小さく,弱い爆発による不完全なplugの破壊がchuggingを発生させたと考えられる.Chuggingイベントは8月27日まで続いた.
5.2017年の火山活動の評価
2017年8月22日~23日の溶岩噴泉は一時的にマグマの放出率を増加させたイベント言える.一方,それに先行するマグマの貫入率は小さい.また,chuggingイベントの発生は爆発力が低下していることを意味する.