日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC41] 活動的火山

2018年5月23日(水) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、青木 陽介(東京大学地震研究所、共同)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、大倉 敬宏(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC41-P07] 水安定同位体比と塩化物イオン濃度に基づく草津白根火山の熱水系の再検討

*香取 慧1寺田 暁彦1西野 佳奈 2沼波 望2大場 武2 (1.東京工業大学火山流体研究センター、2.東海大学理学部化学科)

キーワード:草津白根火山、熱水系、水安定同位体比、塩化物イオン

草津白根火山は水蒸気噴火を繰り返す活動的火山である.有史以降,噴火は白根火砕丘周辺で発生してきたが(Ossaka et al., 1980; Ohba et al., 2008),2018年1月には同火砕丘の南方に2 km位置する北鏡池火砕丘でも噴火が発生した(寺田・他,JPGU2018).同火山の山頂域には,湯釜火口湖など複数の火口湖が存在するほか,草津温泉をはじめとした酸性熱水の湧出が山体各所で認められる.酸性熱水の起源や,その進化,地下浅部での熱水流動経路を化学的に解明することは,熱水系が本質的に関与している水蒸気噴火準備過程を理解するために重要である.これまで,同火山では温泉水の水質調査が繰り返し行われてきた(清棲・倉橋,1982:山本・他,1997:Ohba et al., 2000;木川田・他,2002).さらに,噴気ガスの成分分析や地質調査,物理探査などの研究成果とあわせて,シンプルな熱水系モデルが提唱されている(Ohba et al., 2000など).一方で,現状のモデルでは温泉や噴気の空間配置に関する検討が不十分である.また,溶存成分が時間変化した温泉や,新たに見出された湧水などの溶存成分については,従来のモデルでは上手く説明できないものが存在する.そこで本研究では,小規模な低温湧水も含めて全山的な採水と化学分析を行い,従来提唱されてきた熱水系モデルを再検討した.

白根火砕丘湯釜火口湖,その周辺,および白根火山東麓に点在する温泉水や湧水について,2017年7月から11月にかけて,のべ35カ所で採取した.湯釜火口から最も遠い採取地点は草津温泉で,南南東におよそ6 kmの距離がある.最も北側の採取地点は群馬鉄山温泉で,湯釜火口から東北東に約5 kmである.分析項目は,Cl-,SO42-濃度,各種陽イオン濃度,水安定同位体比およびpHである.

台風による下刻作用により現れた白根火砕丘東麓(湯釜東河川)の湧出を,本研究で初めて採取・分析した.この熱水の溶存成分は,河川流量測定による収支計算に基づき間接的に推定されていた(宇田川・他,2017).今回の分析で,その化学的特徴が直接的に確かめられた.水安定同位体比によれば,湯釜東河川からの湧出流体は,草津白根火山の他の温泉水と比べても高温火山ガスの寄与が高く,また,同様に高温火山ガスの寄与が高いと考えられる香草温泉とは異なる成分組成を有していた.この熱水と似た特徴を有する湯釜湖底湧出(桑原,2017),湯釜東(KSE)流体観測井の井戸水などとともに,従来から知られていた温泉系列(山本・他,1997)とは異なる系列が存在することが示唆された.この系列を,本研究では湯釜系列と呼び,従来から知られていた温泉系列を香草系列と呼ぶ.

湯釜系列は,1960年代以前の草津温泉湯畑の泉質に矛盾しない.草津温泉湯畑は,1970年代に新たに湧出した万代鉱源泉からの廃液が混合することで,その組成が大きく変化している(小坂・他,1995).万代鉱湧出以前の1960年代の化学組成が草津温泉湯畑の本来の組成とみなせば,湯釜系列は,白根火砕丘湯釜火口湖,同火砕丘南南東斜面,草津湯畑温泉へと山麓方向へ流動していることになる.一方,香草系列は,香草,常布温泉および群馬鉄山温泉と,湯釜火口湖から東へおよそ2 kmの山体中腹から少なくとも群馬鉄山温泉まで3 kmほど東北東へ流動していると考えられる.

謝辞:本研究には文部科学省科学研究費補助金(15K01247,代表:寺田)を使用した.