日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC41] 活動的火山

2018年5月23日(水) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、青木 陽介(東京大学地震研究所、共同)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、大倉 敬宏(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC41-P19] 焼岳火山の研究監視観測網の強化と2017年8月の小噴気活動に関連する観測結果

*大見 士朗1宮崎 真大1中本 幹大1 (1.京都大学防災研究所上宝観測所)

キーワード:焼岳、観測網強化、小噴気

§はじめに:平成26 (2014)年9月の御嶽山の噴火災害を受け,大学等が観測研究を重点的に行うとする火山に新たに9火山が加わり,岐阜・長野県境の焼岳火山もこれに含まれることとなった.同年度の文科省の予算措置により,これら9火山の観測設備の整備が行われ,京都大学防災研究所が焼岳火山の観測設備整備を担当した.焼岳火山近傍では従前より防災研究所上宝観測所が観測研究を進めていたが,本報告では,今回の予算措置による設備等を含め,焼岳火山の研究・監視観測網の現状を報告し.併せて2017年8月の小噴気活動発生の際の観測データを紹介する。

§ 観測網の整備状況:上宝観測所では2010年秋から長野県側の上高地内に4点のオフライン観測点を設置するなど焼岳周辺での観測の強化を図りつつあったが,主として短周期地震観測に限られること,長野県側にはオンライン観測点が皆無であること等の問題点があった.その後,2013年度からの3ヵ年の国交省の委託研究により,上高地に2点のオンライン観測点を整備した.さらに,前節で述べた2014年度の文科省の予算措置により,焼岳山頂(DP.YKEP),焼岳中尾峠(DP.NKOT),上高地下堀沢(DP.SMHZ)の3点にオンライン観測点を整備した.焼岳山頂には短周期地震計,気泡型傾斜計,プロトン磁力計,高精度地中温度計が,焼岳中尾峠には短周期および広帯域地震計,気泡型傾斜計,プロトン磁力計,GNSS受信機が,また,上高地下堀沢には孔井型地震計および傾斜計,広帯域地震計,プロトン磁力計,GNSS受信機が,それぞれ設置されている.

§ 得られつつある新たな知見の例:(1)山体近傍の地震活動:焼岳山頂に観測点を設置したことにより,山体近傍のものと思われる地震が捉えられつつある.DP.YKEP(焼岳山頂)と北西山麓のDP.YAKE(京大・中尾)の双方の観測点でS-P時間1秒以内,両振幅0.25μm以上の地震をカウントして比較したところ,DP.YKEP(焼岳山頂)での地震カウント数の方が比較した期間を通じて多いことがわかった.これは山体近傍に極微小地震活動が存在する可能性を示唆しており,観測網が充実したことによる詳細な震源分布が得られることが期待される.

§ 得られつつある新たな知見の例:(2)山頂の熱活動:今回の機器設置において,DP.YKEP(焼岳山頂)には高精度温度計を地表下約1mに埋設した.その観測データによると,DP.YKEP近傍地下は,厳冬期においても45℃を超える地温を保っており,予想よりも熱活動が活発であることが伺える.また,焼岳山頂,焼岳中尾峠,上高地峠沢(東山麓)の深さ約70cmのピット底に設置した気泡型傾斜計に内蔵された温度計によれば,焼岳山頂と焼岳中尾峠ではいずれも厳冬期においても20℃弱の,外気温より有意に高いピット内温度を示しており,DP.NKOT(焼岳中尾峠)周辺も地熱活動が活発であることが推察される.

§2017年8月9日から10日にかけての小噴気活動:8月10日0時50分頃、高山市奥飛騨温泉郷中尾に設置してある国交省の監視カメラにより焼岳西斜面の黒谷火口から小噴気が発生するのが観測された。この時間帯を中心として9日22時台から10日2時台にかけて山体内に震源を持つと考えられる地震が頻発した。これらの地震はDP.YKEPやDP.NKOTなどの山体に設置された観測点で顕著に認められる。なお、これに先立つ8日18時台、9日11時台~13時台についても同様の地震が見られる。これらの地震はP波、S波ともに明瞭でないものも多く、震源を決めることには困難を伴うが、たとえば、10日0時47分に発生した地震(小噴気とほぼ同時刻)のペーストアップを作成すると、DP.YKEPでの走時が最も早く、山頂付近に震源があることが伺える。この地震のDP.YKEP(山頂)での振動波形は周波数1.5Hz付近と7Hz付近の2箇所にピークを持つのに対し、DP.YAKE(京大・中尾、西側山麓)では高周波成分は減衰して1.5Hz付近のピークのみが明瞭となる。また、このイベントの発生時には、DP.NKOTのGNSS、DP.YKEPおよびDP.NKOTのプロトン磁力計、DP.SMHZの傾斜計等のデータには検出可能な変化は認められなかった。また、DP.YKEPでの精密温度観測データは8月初旬の降雨による温度低下からの回復過程にあり、このイベントに伴う変化を検出することは困難であった。