15:45 〜 16:00
[SVC42-08] 火山噴煙中の水蒸気の同位体組成定量
キーワード:火山ガス、安定同位体組成、キャビティリングダウン分光分析装置
火山から放出される揮発性物質(火山ガス)は、その8割以上を水蒸気が占める。この火山ガス中の水蒸気の起源には、マグマそのものの場合(マグマ水)と、山体内部の地下水の場合(天水)があり、両者間で各同位体比(δDおよびδ18O)が大きく異なることが知られている。噴火に伴って大気中に放出され、風下に流下してくる噴煙中の水蒸気の同位体比を定量化することができれば、そこから水蒸気の起源(マグマ水か、天水か)が判別できる。これは、その噴火がマグマ噴火か、それとも水蒸気噴火かを判別することに直結するため、極めて重要である。
ただし噴煙中に含まれる水蒸気は、火山ガス由来の水蒸気の他に一般大気由来の水蒸気が混合しているので、噴煙中の水蒸気の同位体比と火山ガス中の水蒸気の同位体比はイコールとはならない。そこで本研究では、多数の噴煙試料を採取・分析し、噴煙と周辺大気が単純混合する時に試料間の濃度の逆数と同位体比が直線関係になることを利用することで、一般大気由来の水蒸気の影響を補正し、噴気孔における同位体比を推定した(Tsunogai et al., 2011)。
また従来の水蒸気の同位体測定は、磁場型の質量分析計を用い、液体状態でmLレベル(= 10-100 mmol程度)の水蒸気を必要としていた。このため、火山ガス(水蒸気濃度 = 80 vol%以上)を直接採取できる場合は問題ないが、火山ガスが希釈された噴煙(水蒸気濃度 = 0.1 vol%程度)だと大量に採取して含まれる水蒸気を液化して集める必要があり、多試料の噴煙試料について、同位体比定量を実現するのは現実的ではなかった。近年Cavity Ring-Down分光分析システム(CRDS)が発展し、気体状態の水蒸気をCRDSに導入することで、質量分析計を使う場合と同等の精度で同位体比が定量できるようになった。
そこで、本研究ではCRDSを用いて噴煙中の水蒸気の同位体比を定量化する新システムを構築して、試料測定に活用した。噴煙試料は現場で真空容器中に採取し、実験室内に構築した測定システムを用いて分析した。まず接続部を高純度空気でフラッシュし、流路を切り替えた上で容器のバルブを開放し、容器内の大気(噴煙)試料をCRDSに圧力差を用いて導入した。導入後、CRDSの出力が安定したところで同位体比を測定した。流路上への水蒸気の吸着を抑制するため、測定システム全体を60℃程度に加熱して使用した。付属の蒸発器から同位体比既知の水試料(標準)を高純度空気中に導入して水蒸気化し、CRDSで測定することで、測定値をキャリブレーションした。続いて、推定した噴気孔の水蒸気の同位体比と、直接採取・分析した噴気孔の水蒸気の同位体比を比較し、本研究の手法の有効性を確認・検証した。
観測は、マグマ水が放出されていると考えられる九州・薩摩硫黄島の高温噴気孔(>700℃)周辺において行った。、噴気孔からの距離を変えながら、15試料程度の噴煙試料を真空容器(内容積500mL程度のガラス製)に採取した。同時に、噴気孔において低温トラップを用いて凝縮させた水蒸気試料(凝縮水)の直接採取を行った。噴煙中の水蒸気の濃度(逆数)と同位体比(δDおよびδ18O)はそれぞれ強い線形相関(それぞれR2 = 0.75および0.78)を示した。噴煙試料間の濃度(逆数)と同位体比の直線関係から推定した噴気孔におけるδDとδ18Oはそれぞれ−16.2 ± 10.5‰、+4.0 ± 1.9‰であった。これは噴気孔で直接採取・分析した水蒸気のδDとδ18O(−22.9 ± 1.2‰および+7.8 ± 0.4‰)とそれぞれ、誤差の範囲内で一致した。本研究手法は噴煙を用いて噴気中のΗ2Οの同位体比を遠隔から推定し、これを噴火メカニズム等の推定に活用できることが実証された。
本研究は文部科学省「次世代火山研究・人材育成プロジェクト」の助成を受けたものです。
ただし噴煙中に含まれる水蒸気は、火山ガス由来の水蒸気の他に一般大気由来の水蒸気が混合しているので、噴煙中の水蒸気の同位体比と火山ガス中の水蒸気の同位体比はイコールとはならない。そこで本研究では、多数の噴煙試料を採取・分析し、噴煙と周辺大気が単純混合する時に試料間の濃度の逆数と同位体比が直線関係になることを利用することで、一般大気由来の水蒸気の影響を補正し、噴気孔における同位体比を推定した(Tsunogai et al., 2011)。
また従来の水蒸気の同位体測定は、磁場型の質量分析計を用い、液体状態でmLレベル(= 10-100 mmol程度)の水蒸気を必要としていた。このため、火山ガス(水蒸気濃度 = 80 vol%以上)を直接採取できる場合は問題ないが、火山ガスが希釈された噴煙(水蒸気濃度 = 0.1 vol%程度)だと大量に採取して含まれる水蒸気を液化して集める必要があり、多試料の噴煙試料について、同位体比定量を実現するのは現実的ではなかった。近年Cavity Ring-Down分光分析システム(CRDS)が発展し、気体状態の水蒸気をCRDSに導入することで、質量分析計を使う場合と同等の精度で同位体比が定量できるようになった。
そこで、本研究ではCRDSを用いて噴煙中の水蒸気の同位体比を定量化する新システムを構築して、試料測定に活用した。噴煙試料は現場で真空容器中に採取し、実験室内に構築した測定システムを用いて分析した。まず接続部を高純度空気でフラッシュし、流路を切り替えた上で容器のバルブを開放し、容器内の大気(噴煙)試料をCRDSに圧力差を用いて導入した。導入後、CRDSの出力が安定したところで同位体比を測定した。流路上への水蒸気の吸着を抑制するため、測定システム全体を60℃程度に加熱して使用した。付属の蒸発器から同位体比既知の水試料(標準)を高純度空気中に導入して水蒸気化し、CRDSで測定することで、測定値をキャリブレーションした。続いて、推定した噴気孔の水蒸気の同位体比と、直接採取・分析した噴気孔の水蒸気の同位体比を比較し、本研究の手法の有効性を確認・検証した。
観測は、マグマ水が放出されていると考えられる九州・薩摩硫黄島の高温噴気孔(>700℃)周辺において行った。、噴気孔からの距離を変えながら、15試料程度の噴煙試料を真空容器(内容積500mL程度のガラス製)に採取した。同時に、噴気孔において低温トラップを用いて凝縮させた水蒸気試料(凝縮水)の直接採取を行った。噴煙中の水蒸気の濃度(逆数)と同位体比(δDおよびδ18O)はそれぞれ強い線形相関(それぞれR2 = 0.75および0.78)を示した。噴煙試料間の濃度(逆数)と同位体比の直線関係から推定した噴気孔におけるδDとδ18Oはそれぞれ−16.2 ± 10.5‰、+4.0 ± 1.9‰であった。これは噴気孔で直接採取・分析した水蒸気のδDとδ18O(−22.9 ± 1.2‰および+7.8 ± 0.4‰)とそれぞれ、誤差の範囲内で一致した。本研究手法は噴煙を用いて噴気中のΗ2Οの同位体比を遠隔から推定し、これを噴火メカニズム等の推定に活用できることが実証された。
本研究は文部科学省「次世代火山研究・人材育成プロジェクト」の助成を受けたものです。