日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC42] 火山の熱水系

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:大場 武神田 径

16:15 〜 16:30

[SVC42-10] 霧島硫黄山の火山ガスについて

*大場 武1西野 佳奈1谷口 無我2 (1.東海大学理学部化学科、2.気象庁気象研究所)

キーワード:霧島硫黄山、火山ガス、化学組成

【序】

 霧島硫黄山では,2015年12月に山頂付近で噴気が出現し火山性微動が発生するなど,火山活動が活発化している.火山ガスはマグマから脱ガスした成分を含み,火山活動の評価に有用である.本研究では,2015年12月から2018年1月にかけて,霧島硫黄山で噴気を繰り返し採取・分析した.これらの試料の化学組成および安定同位体比の変動と火山活動との関係を考察する.



【噴気の採取・分析】

 霧島硫黄山山頂付近の3か所で噴気a,b,cを採取した.噴気aの位置は,2015年12月に噴気が出現した場所で,噴気bは噴気aから40m程度南に位置する.噴気cは噴気aから南南西の方向に200m程度離れている.噴気の出口温度は水の沸点に近く,噴気の放出圧力は低かった.噴気の放出に大きな音は伴わなかった.KOH水溶液を封入し内部を脱気したガラス瓶(Giggenbach bottle)による採取,ヨウ素溶液による洗気,凝縮器による噴気凝縮液採取を行い,それらの分析結果を組み合わせ,噴気の全化学組成と水の安定同位体比を決定した.



【結果・考察】

 噴気のCO2/H2O比は2016年5月頃に一度ピークを迎えその後2017年9月までは減少傾向を示したが,3つの噴気で同時に2017年10月に上昇に転じた.その後2017年11月にかけて上昇し,2018年1月には再び低下した.CO2/H2S比にはCO2/H2O比と類似した変動がみられた.CO2/CH4比とHe/CH4比は2016年2月から2017年9月までは比較的小さな変動で推移したが,それ以降は大きな変動を伴い上昇した.火山ガスに含まれるSO2,H2S,H2,H2Oの濃度から計算される見かけ平衡温度(AET)は,2015年12月に232℃であったが,2016年2月には313℃に上昇し,その後安定していたが,2017年5月に500℃程度まで急激に上昇した.この時期は噴気の放出も盛んであった.しかしAETは2017年9月には300℃程度に低下し,その後安定している.2017年10月以降は噴気の放出も減少した.噴気に含まれるH2Oの水素同位体比と酸素同位体比は,2016年2月から2017年5月にかけて,徐々に高まり,その後は安定している.

 噴気に含まれるHeやCO2はマグマ起源の成分であり,H2SやCH4は熱水系で形成される成分に分類される.よって,これらのガスの比であるCO2/H2S,He/CH4,CO2/CH4の上昇は,地下においてマグマ起源流体の比率が上昇していることを示し,火山活動の活発化と対応すると考えられる.実際に霧島硫黄山ではこの対応関係は成立しており,2015年12月~2016年2月の期間,火山性地震が頻発した時期にこれらの比は協調して高い値を示している.同様に2017年8月以降に増加した火山性地震に対応し,2017年9月から10月にかけて,CO2/H2S,He/CH4,CO2/CH4は協調して上昇したと考えられる.しかし,2017年11月から2018年1月にかけて,これらの比の間に見られる協調性は破れた.即ち,CO2/H2Sは低下したが,He/CH4,CO2/CH4比は上昇した.

 噴気に含まれるガス成分には反応性に相違がある.たとえば,H2は最も変化しやすい成分とされ,地表に近い地下の条件(温度,酸化還元ポテンシャル)に影響される.H2Sも同様で,噴気地帯に見られるように噴気孔の自然硫黄は硫黄成分が沈殿して形成されたものであり,噴気の硫黄成分濃度は地表近く変化している可能性がある.地殻の岩石含まれるFe2+とH2Sが反応し黄鉄鉱を形成し,火山ガスからH2Sが失われる可能性もある.一方で,CO2やCH4は比較的変化し難い成分であり,Heは希ガスのため決して地下を移動する過程で失われることは無い.これらのことから,変化を受けにくい成分の比であるHe/CH4,CO2/CH4は比較的深い地下の環境を反映していると考えられる.よって,2017年11月から2018年1月にかけて生じたCO2/H2S,He/CH4,CO2/CH4比,AETの変化から,地下浅部の温度は安定しているが,一方で熱水系深部ではマグマ起源流体の比率が上昇していると解釈される.