日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC42] 火山の熱水系

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC42-P07] 伊豆大島の火山活動に伴う質量・熱収支解明に向けた既存資料の整理

*鬼澤 真也1松島 喜雄2 (1.気象研究所 火山研究部 第一研究室、2.産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

キーワード:伊豆大島火山、地下水、浸透率、地殻熱流量

はじめに
マグマ・揮発性成分や地下水の質量・熱収支を明らかにしていくことは,火山活動を解明する上で本質的に重要である.伊豆大島では地下の流体や熱の移動,場の物性について幾多の研究がなされている.ここでは,伊豆大島の火山活動に伴う質量・熱収支の解明を目指し,関連する観測量や推定量について既存資料の整理を行う.

地下水分布・流動
伊豆大島では,年間およそ3,000 mmの降水があるが,ほぼ地表水はなく,その多くは地下に浸透していると考えられる.また地下水位が海水準程度と低く,厚い不飽和層が発達している.局所的な宙水の存在が認められるが,高標高からの湧水量は少なく,浸透した天水のほとんどは,地下水面に到達した後,動水勾配により海へ排出されていると考えられる.また,伊豆大島は周囲を海に囲まれた海洋島であり,島内への海水の侵入を示す様々な観測量がある.

浸透率
浸透率は地下水の流れ,熱水系の発達等を強く規定する重要なパラメータである.伊豆大島南東部の坑井では揚水試験から6.3×10-9~6.9×10-11 m2(農水省関東農政局, 1980; 1986),北西部元町小清水坑井では地下水位の潮汐に対する応答から5.7-7.8×10-9 m2 (Koizumi et al., 1998)と推定されている.これらは坑井周辺での水平方向の浸透率を反映していると考えられる.一方,Onizawa et al. (2009)は,全島スケールでの天水浸透・流動の数値シミュレーションを行い,仮に全降水が浸透した場合,水平方向で3×10-11 m2,鉛直方向で3×10-13 m2程度で,海岸沿いで約0 m,山頂部で36 mという観測される地下水位を再現することが可能であることを示した.なお,カルデラ北部では,地下水位が標高200 m程度と高く,局所的に浸透率が低いと推測される.

地殻熱流量
地下からの伝導伝熱は深井戸の温度,熱伝導率の情報から推察される.Honda et al. (1979)は,伊豆大島北西端における坑井内温度および岩石の熱伝導率から地殻熱流量を推定している.彼らは温度勾配をほぼ直線で近似できる海水準下およそ500 m~700 mの区間をこの坑井での伝導伝熱の代表とみなし,温度勾配0.221 K/m,熱伝導率0.917 W/(m K)から地殻熱流量は203 mW/m2(4.85 HFU)と見積もった.これは平均的地殻熱流量の3倍程度となる.なお,この深度は一色 (1984)の地質層序と対比すれば,大島火山の基盤となる「伏在火山岩層」に相当する.一方,カルデラ南西縁の1,000 m深坑井では,地表からおおよそ海水準まではほぼ等温であり強い地下水の下降流を示唆する.一方,海水準以深で0.2 K/mを越える高い温度勾配が観測され,坑底では173℃に達する(中田・他, 1999).伏在火山岩層に対比される海水準下250 m以深での温度勾配は平均0.29 K/mで,これにHonda et al. (1979)で測定された三ツ峰No. 1で測定された同層の平均的熱伝導率0.917 W/(m K)を適用すれば,地殻熱流量は266 mW/m2(6.35 HFU)と求まる.これは平均的地殻熱流量のおよそ4倍程度である.仮に全島についてこれらの地殻熱流量を適用すれば,全島面積91 km2に対して18-24 MWが伝導により供給されていると見積もられる.

マグマから放出される揮発性成分とその熱の移動は,このような場の中で行われていると考えられる.発表ではそれらに関する既知の情報と関連付けながら上述の内容を取りまとめる.