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[SVC43-04] 十和田火山・噴火エピソードBの噴火推移
キーワード:十和田火山、噴火エピソードB、中湖カルデラ、マグマ水蒸気噴火
はじめに 青森・秋田県境に位置する十和田火山は、過去11,000年間に少なくとも8回の爆発的噴火活動を行い、そのほとんどでマグマ噴火からマグマ水蒸気噴火へと至る噴火推移を辿っている(工藤・佐々木,2007等)。2.8kaの噴火エピソードBもマグマ噴火である迷ヶ平軽石(BM)からマグマ水蒸気噴火である惣部火山灰(BS)へと推移したとされているが(Hayakawa, 1985)、実際にどのような活動であったかは明らかではない。噴火エピソードBの前後の活動である西暦915年の噴火エピソードAと6.2kaの噴火エピソードCも同様にマグマ噴火からマグマ水蒸気噴火への推移を辿っているが、両噴火でのマグマ水蒸気噴火の発生機構が異なるなど(広井ほか,2015;井澤・宮本,2017年連合大会)、噴火現象としては同じではない。そのため本報告では、エピソードBにおける噴火現象の推移を明らかにすることを目的として調査・検討を行った。
野外観察の結果 下位のBMは東南東に伸長した分布軸をもつ降下軽石層で、厚さ1cm程度の火山灰薄層を複数狭在する。噴火口である中湖から東南東5.5kmのカルデラ壁上では、BMの総層厚は47cmで、狭在する4枚の火山灰層(BM-A下位より-A1~-A4)によって5層の軽石層(BM-P下位より-P0,~-P4)に細分される。BM-P1,P2では軽石の粒径が大きく、厚さも10cmと厚い。BM-Pは白色~黄色の比較的発泡のよい軽石を主体とし、いずれも岩片に富む。BM-P0を除く軽石層はいずれも上位へと緩く逆級化を示す。加えてBM-P1は最上部において急激に粒径が減少する正級化を示す。BM-P0の基底部には最大粒径14cmのカリフラワー状軽石を含む粗粒な軽石のレイヤーが認められ、その上位で急激に粒径が減少する。BM-P0基底部の粗粒軽石のレイヤーとBM-P1,-P2は、給源から約15kmの遠方まで追跡可能である。BM-Aは褐色~灰色を呈し、粒径1mm未満の火山灰粒子からなる。軽石層の上面に沿って堆積し、距離による層厚変化はBM-Pと比べて緩やかである。BSは青灰色の火山灰層で、粒度の特徴はBM-Aと類似するが、火山灰薄層の累重によって層厚は厚く、前述のカルデラ壁上では約50cmである。中湖を中心とした同心円状の分布をし、BMよりも広範に分布する(Hayakawa, 1985)。観察される多くの地点においてvesiculated tuffの特徴を示し、上位の方が気孔の量が多くなる傾向がある。カルデラ内の露出は限られるが、観察した1地点においてBM上面の起伏を埋めて堆積し、火砕性密度流の特徴を示す。カルデラ外では一部BM-P4を削剥しているように見える地点もあるが、基本的に下位層に沿って堆積するなど火砕性密度流の証拠は乏しい。
構成物観察の結果 それぞれの層について250µm以下の構成物粒子の観察・分析を行った。BM-PとBM-Aで構成物種の違いはなく、発泡粒子である軽石ガラスと岩片・結晶片からなる。いずれにも岩片や軽石ガラスの表面に極細粒粒子が付着したarmored lappili が一定量含まれる。軽石ガラスは、BM-Pでは細く繊維状に伸びた高発泡度のものを主とするが、塊状に近い低発泡度のものまで多様な発泡度のものが混在する。一方、BM-Aでは高発泡度のものは稀で中~低発泡度の軽石ガラスからなる。BSには発泡した軽石ガラスは含まれず、塊状の岩片と結晶片からなる。岩片はガラス質の黒曜石から高石基結晶度のものまで含まれ、岩石種も玄武岩~流紋岩と多様である。
噴火エピソードBの噴火推移 噴火エピソードCではプリニー式噴火である中掫軽石末期に中湖カルデラの陥没地形が形成されはじめ、その後、噴煙柱形成を繰り返した金ヶ沢軽石を経て、溶岩ドームと湖水の反応によるマグマ水蒸気爆発を頻発した宇樽部火山灰へと推移した段階で火口湖を形成した(井澤・宮本,2017年連合大会)。噴火エピソードBでは噴火最初期のBM-P0にカリフラワー状軽石が含まれ、armored lappili やvesiculated tuff などの外来水との関与を示す証拠が活動を通じて観察されることは、常に火口湖が存在したことを示唆する。
類似した火山灰層であるBM-AとBSで構成物種が異なることはその成因が異なることを示唆し、前者は降下軽石と構成物が同じであることから噴煙柱の崩壊による火砕性密度流、後者は未発泡粒子を主体とし外来水の影響を示すことから、溶岩ドームと湖水の反応によるマグマ水蒸気爆発に由来すると考えられる。BM-P1の粒径変化は噴煙柱の消長を示し、続く火砕性密度流の発生へと移行したようにみえるが、BM-Aの軽石ガラスの発泡度がBM-Pより低いことは、先行する噴煙柱の崩壊ではなく、新たに上昇した低発泡度のマグマが高高度の噴煙を作れず、側方に広がった可能性が高い。このようにBMでは火砕性密度流の発生を境とした断続的な噴煙柱の形成が繰り返された。その後、噴火のスタイルは一変し、湖底への溶岩の貫入と湖水との反応による断続的なマグマ水蒸気爆発(BS)に移行した。これまで噴火エピソードBはすべて降下性の堆積物とされてきた(山元,2015)が、今回少なくともカルデラ内においてBSが火砕性密度流として堆積したことが判明した。
今回得られた噴火エピソードBの噴火推移は、噴火エピソードCにおけるカルデラ形成開始後の金ヶ沢軽石から宇樽部火山灰への推移と同じである。BM-P中の岩片量は金ヶ沢軽石と同様に高く、両噴火においてカルデラ形成が進行していたといえる。金ヶ沢軽石と宇樽部火山灰の総噴出量は、噴火エピソードBと同程度であり(Hayakawa, 1985)、両噴火はよく類似した活動であるといえる。これは中湖カルデラ形成過程において、ほぼ同じ火道・火口条件で両噴火が進行したことに起因する可能性が高い。
野外観察の結果 下位のBMは東南東に伸長した分布軸をもつ降下軽石層で、厚さ1cm程度の火山灰薄層を複数狭在する。噴火口である中湖から東南東5.5kmのカルデラ壁上では、BMの総層厚は47cmで、狭在する4枚の火山灰層(BM-A下位より-A1~-A4)によって5層の軽石層(BM-P下位より-P0,~-P4)に細分される。BM-P1,P2では軽石の粒径が大きく、厚さも10cmと厚い。BM-Pは白色~黄色の比較的発泡のよい軽石を主体とし、いずれも岩片に富む。BM-P0を除く軽石層はいずれも上位へと緩く逆級化を示す。加えてBM-P1は最上部において急激に粒径が減少する正級化を示す。BM-P0の基底部には最大粒径14cmのカリフラワー状軽石を含む粗粒な軽石のレイヤーが認められ、その上位で急激に粒径が減少する。BM-P0基底部の粗粒軽石のレイヤーとBM-P1,-P2は、給源から約15kmの遠方まで追跡可能である。BM-Aは褐色~灰色を呈し、粒径1mm未満の火山灰粒子からなる。軽石層の上面に沿って堆積し、距離による層厚変化はBM-Pと比べて緩やかである。BSは青灰色の火山灰層で、粒度の特徴はBM-Aと類似するが、火山灰薄層の累重によって層厚は厚く、前述のカルデラ壁上では約50cmである。中湖を中心とした同心円状の分布をし、BMよりも広範に分布する(Hayakawa, 1985)。観察される多くの地点においてvesiculated tuffの特徴を示し、上位の方が気孔の量が多くなる傾向がある。カルデラ内の露出は限られるが、観察した1地点においてBM上面の起伏を埋めて堆積し、火砕性密度流の特徴を示す。カルデラ外では一部BM-P4を削剥しているように見える地点もあるが、基本的に下位層に沿って堆積するなど火砕性密度流の証拠は乏しい。
構成物観察の結果 それぞれの層について250µm以下の構成物粒子の観察・分析を行った。BM-PとBM-Aで構成物種の違いはなく、発泡粒子である軽石ガラスと岩片・結晶片からなる。いずれにも岩片や軽石ガラスの表面に極細粒粒子が付着したarmored lappili が一定量含まれる。軽石ガラスは、BM-Pでは細く繊維状に伸びた高発泡度のものを主とするが、塊状に近い低発泡度のものまで多様な発泡度のものが混在する。一方、BM-Aでは高発泡度のものは稀で中~低発泡度の軽石ガラスからなる。BSには発泡した軽石ガラスは含まれず、塊状の岩片と結晶片からなる。岩片はガラス質の黒曜石から高石基結晶度のものまで含まれ、岩石種も玄武岩~流紋岩と多様である。
噴火エピソードBの噴火推移 噴火エピソードCではプリニー式噴火である中掫軽石末期に中湖カルデラの陥没地形が形成されはじめ、その後、噴煙柱形成を繰り返した金ヶ沢軽石を経て、溶岩ドームと湖水の反応によるマグマ水蒸気爆発を頻発した宇樽部火山灰へと推移した段階で火口湖を形成した(井澤・宮本,2017年連合大会)。噴火エピソードBでは噴火最初期のBM-P0にカリフラワー状軽石が含まれ、armored lappili やvesiculated tuff などの外来水との関与を示す証拠が活動を通じて観察されることは、常に火口湖が存在したことを示唆する。
類似した火山灰層であるBM-AとBSで構成物種が異なることはその成因が異なることを示唆し、前者は降下軽石と構成物が同じであることから噴煙柱の崩壊による火砕性密度流、後者は未発泡粒子を主体とし外来水の影響を示すことから、溶岩ドームと湖水の反応によるマグマ水蒸気爆発に由来すると考えられる。BM-P1の粒径変化は噴煙柱の消長を示し、続く火砕性密度流の発生へと移行したようにみえるが、BM-Aの軽石ガラスの発泡度がBM-Pより低いことは、先行する噴煙柱の崩壊ではなく、新たに上昇した低発泡度のマグマが高高度の噴煙を作れず、側方に広がった可能性が高い。このようにBMでは火砕性密度流の発生を境とした断続的な噴煙柱の形成が繰り返された。その後、噴火のスタイルは一変し、湖底への溶岩の貫入と湖水との反応による断続的なマグマ水蒸気爆発(BS)に移行した。これまで噴火エピソードBはすべて降下性の堆積物とされてきた(山元,2015)が、今回少なくともカルデラ内においてBSが火砕性密度流として堆積したことが判明した。
今回得られた噴火エピソードBの噴火推移は、噴火エピソードCにおけるカルデラ形成開始後の金ヶ沢軽石から宇樽部火山灰への推移と同じである。BM-P中の岩片量は金ヶ沢軽石と同様に高く、両噴火においてカルデラ形成が進行していたといえる。金ヶ沢軽石と宇樽部火山灰の総噴出量は、噴火エピソードBと同程度であり(Hayakawa, 1985)、両噴火はよく類似した活動であるといえる。これは中湖カルデラ形成過程において、ほぼ同じ火道・火口条件で両噴火が進行したことに起因する可能性が高い。