日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC43] 火山・火成活動および長期予測

2018年5月20日(日) 10:45 〜 12:15 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域、共同)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、前野 深

12:00 〜 12:15

[SVC43-10] 鬼界カルデラにおける7.3 ka超巨大噴火のクライマックスに至るまでの時間スケール

*前野 深1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:カルデラ、鬼界、火砕物密度流、溶結、時間スケール

多くのカルデラ形成噴火では,先行するプリニー式噴火(ステージ1)とそれに続く大規模火砕流の噴出(ステージ2)という2段階のステージを経て噴火が進行していくことが知られている(e.g., Druitt and Sparks, 1984)。しかし具体的にどの程度の時間スケールで現象が進行していくかについては,歴史時代に観測・目撃された例を除きほとんどわかっていない。本発表では,南九州鬼界カルデラで7.3 kaに発生した超巨大噴火(鬼界アカホヤ噴火)の堆積物について近年得られた知見をもとに,このイベントの推移について考察する。とくにカルデラ崩壊を伴う噴火のクライマックスに至るまでの時間スケールに注目する。鬼界アカホヤ噴火の堆積物は大きく2ステージ4 ユニット(Unit A: 降下軽石堆積物,B: 火砕物密度流 (PDC) 堆積物,C: PDC堆積物,D: 降下火山灰堆積物)に区分される(Maeno and Taniguchi, 2007; 2009)。Unit A,Bはプリニー式噴煙柱形成とそれに続く噴煙柱崩壊を示す堆積物である(ステージ1)。Unit Bは近傍の島々にのみ認められるが,流走距離10 km以上,最大層厚20 mに達するPDC堆積物である。また,斜交層理が発達し層厚数m程度でも溶結するなど,高速・高温の流れからの堆積を示す。Unit C,Dは噴火のクライマックスの堆積物に相当し,九州本土や種子島・屋久島まで拡がった大規模なPDC(幸屋火砕流)とそれに伴う広域火山灰(アカホヤ火山灰)を含む(ステージ2)。近傍ではいずれのユニットも複数のサブユニットに区分でき,各ステージでは段階的に噴火が進行したと考えられる。これらの層序の中でひとつの注目すべき点は,Unit B-C間に時間間隙を示唆する地質痕跡が存在することである。その痕跡の例として,Unit Bの溶結ブロック(長径 >1 m)がUnit Cに取り込まれている構造が挙げられる。この構造は,ステージ1のUnit B堆積後に溶結・冷却が十分に進むだけの時間が存在し,その後ステージ2のPDCによりUnit Bの一部が脆性的に破壊・侵食され,Unit C中に取り込まれたことを示す。またUnit B-C間には明瞭なチャネル構造がしばしば認められることからも,ある程度の時間間隙があったことが示唆される。一方,実際の堆積構造・構成物データと溶結現象の理論研究 (e.g., Riehle et al. 1995; Quane et al. 2009) をもとに,高温で定置した堆積物が自重により変形し,十分冷却して層厚や堆積構造(溶結度)が決まるまでの時間スケールを推定できる。噴出物データをもとにして様々な条件を仮定して計算を行った結果,観察される堆積物の構造や溶結度を説明するためには,堆積後数日から一週間以上の時間を要するという結果が得られた。つまり,ステージ1と2の間には少なくとも日あるいは週のオーダーのギャップがあった可能性がある。一方クライマックスの近傍堆積物は,礫質及び軽石質PDC堆積物の互層からなる。複数の堆積ユニットに区分でき,最上位の軽石質ユニットが最も厚い。堆積物の特徴から,クライマックスでは段階的に火道の形成・拡大が進行し,その中で最大規模のPDCが広域に拡がったと考えられる。プリニー式噴火で始まった鬼界アカホヤ噴火は,噴煙柱崩壊ステージ後に静穏なステージを挟み,その後カルデラ崩壊を伴うステージ2に移行していった。さらにその終盤に幸屋火砕流の発生に至ったと考えられる。この噴火推移は,プリニー式噴火後にカルデラ崩壊までほぼ連続的に進行した歴史時代のカルデラ形成噴火(1815年タンボラ火山,1883年クラカタウ火山など)とはやや異なるようである。