日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC43] 火山・火成活動および長期予測

2018年5月20日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域、共同)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SVC43-P02] 火星Elysium火山の溶岩降伏値と縦穴下の溶岩チューブ洞窟の存在可能性

*本多 力1 (1.火山洞窟学会)

キーワード:火星、Elysium火山、溶岩降伏値、縦孔、溶岩チューブ、洞窟

[はじめに]
Mars Reconnaissance Orbiter 搭載 HiRISE によって得られたエリシウム火山の近傍の縦穴の画像データがJAXAの後藤祐紀他1)によりリスト化され整理されている。それらの縦穴下に溶岩チューブ洞窟の存在可能性があるかどうかビンガム流動モデルを用いて検討を行った。モデルでのキーパラメータである溶岩降伏値については、J.H.Paschert et al2)によってエリシウム火山の近傍の溶岩流厚さが得られておりその溶岩流停止条件から得られる最小の降伏値3)を使用した。
[検討モデル]
検討モデルとしては、密度ρの溶岩流を降伏値fBのビンガム流体として角度αの傾斜した面を重力gで流れる場合を考える3)。溶岩流の流動臨界条件はHを溶岩流厚さとするとH=nfB/(ρg sinα)で表される。斜面表面上を自由表面をもって流れる場合はn=1,円管内を流れる場合はn=4である。溶岩流厚さから降伏値を求める場合はn=1の場合のfB=H(ρg sinα)から、その降伏値から溶岩チューブ洞窟高さを求める場合はn=4の場合のH=4fB/(ρg sinα)から求めた。
[溶岩降伏値の推定]
キーパラメータである溶岩降伏値については、J.H.Paschert et al2)によってエリシウム火山の近傍の溶岩流厚さがFig.1のように得られておりその厚さHからfB=H(ρg sinα)を使って求めるとFig.2が得られる。重力加速度はg=373cm/s2、密度はρ=2.5g/cm3を用いた。計算された降伏値の値は上流側から下流側へ2.63x105 dyne/cm2から1.84x103 dyne/cm2へ減少している。この原因として上流側ほど溶岩流の膨張や累積による見かけの降伏値が大きく出ていると考えられる。したがって、溶岩流の膨張や累積が少ないとみられる斜度0.1度、溶岩厚さ11.3mの時の溶岩停止条件から得られる最小降伏値1.84x103 dyne/cm2が真の降伏値に近いものとして採用使用した3)
[溶岩チューブ洞窟高さの推定]
後藤祐紀他1)によりリスト化し整理された縦穴の番号と直径・深さをTable1の左欄に示す。必要な傾斜角度はエルシウム火山地質図5)の等高線から読み取り概略推定したものを記載した。溶岩チューブ洞窟高さの推定に用いた限界条件はn=4の場合のHc=4fB/(ρg sinα)で、その結果をTable1の右欄に示す。すべての縦穴でH>>Hcであるため、縦穴下には溶岩チューブ洞窟は存在する可能性は十分にある。
[おわりに]
溶岩チューブ洞窟は存在する可能性はあるがその高さは縦穴深さに比べて小さい。縦穴の中の溶岩層の中に多くの溶岩チューブ洞窟は交差して存在する可能性があるが、これらの縦穴はむしろ溶岩チューブ洞窟のスカイライトであるよりはピット・クレータ6)の可能性がある。ハワイ・キラウェアのデビルズ・スロート7)に類似したピット・クレータと類似なものと考えられる。

参考文献:
1)後藤祐紀他(2017): 火星エリシウム山麓における縦孔陥没地形リスト,JAXA-RM-16-008
2)J.H.Paschert,H.Hieginger,D.Reiss(2012):Rheologies and ages of lava flows on Elysium Mons,Mars,Icarus 219(2012)p443-457
3)本多力(2017):火星・エリシウム火山の溶岩流降伏値と溶岩チューブ洞窟の存在可能性、日本洞窟学会第43回大会(八重瀬大会)予稿集
4)G.Hulme(1974):Geophys.J.R.Astr.Soc.vol39,p361
5)USGS(1999): GEOLOGIC MAP OF THE GALAXIAS QUADRANGLE (MTM 35217) OF MARS By René A. De Hon, Peter J. Mouginis-Mark, and Eugene E. Brick
6) G.E. Cushing(2012):Candidate cave entrances on Mars. Journal of Cave and Karst Studies, v. 74, no. 1, p. 33–47. DOI: 10.4311/ 2010EX0167R
7)C. H. Okubo, S. J. Martel(1998): Pit crater formation on Kilauea volcano, Hawaii、Journal of Volcanology and Geothermal Research 86,1998 p1–18