日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC44] 島弧の火成活動と火山ダイナミクス

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、中村 仁美(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)、入山 宙(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:鈴木 雄治郎(東京大学 地震研究所)、入山 宙(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

09:30 〜 09:45

[SVC44-03] 炭素循環解明に向けたCO2-H2O-ケイ酸塩の溶融・相平衡のパラメター化

*大野 正貴1岩森 光1,2 (1.東京工業大学、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

キーワード:物質循環、沈み込み帯、脱水・加水、二酸化炭素、地球史、融点

現在、大気中の CO2 は地球温暖化という観点で水蒸気に次いで大きな効果を持ち、自然的と人為的な排出 CO2 のバランス変化は社会的に重要である。地球史スケールでは、太古代以降 CO2 分圧が大きく減少しており、表層と巨大な質量を有する地球深部との関係、特に物質の流入口となる沈み込み帯での CO2 の振る舞いは重要である。沈み込み帯での物質の挙動には流体やマグマが大きな役割を果たしており、脱水・加水および溶融過程で CO2 がどのように振る舞い、輸送されるかが鍵となる(e.g., Dasgupta & Hirschmann, 2010, EPSL; Kelemen & Manning, 2015, PNAS)。しかし、その定量的な評価は限定的で大きく不足しており、統一的な理解に至っていない。この問題解決には、脱水・加水、溶融現象における CO2 の振る舞いの定量評価が不可欠であり、根幹にある溶融・相平衡に携わるパラメター化は急務であると考える。本研究は、先行研究の実験データを統合し、CO2-H2O-ケイ酸塩の広い組成に対応する溶融・相平衡とそのパラメター化に基づき、上記 CO2 問題の根幹に迫ろうとするものである。
沈み込み帯の物質循環における炭素の重要性については、これまで多くの議論が蓄積され、酸化的な雰囲気の300 km 以浅の沈み込み帯においては CO2 の挙動や溶融現象への効果が注目されている。また、沈み込む海洋プレート(スラブ)から供給される H2O は、溶融・相平衡に直接作用するために重要視されている。同時に、H2O は CO2 を輸送する役割も担い、沈み込み帯の流体現象を理解するためには両成分を総合的に取り扱う必要がある。
両成分はペリドタイト系のソリダス温度を大きく下げ、融けやすくする効果がある。H2O の効果は流体濃度、圧力、温度について詳細かつ連続的にパラメター化され、溶融量についても定量化されている(e.g., Iwamori, 1998, EPSL)。さらに、マントル対流モデルの数値シミュレーションに組み込まれ、ダイナミクスを議論できるまでに研究が進んでいる(e.g., Ikemoto & Iwamori, 2014, EPS)。ところが、CO2 の効果については、シミュレーションどころか、沈み込み帯を議論する上で不可欠な相平衡・溶融に関する実験データも「疎」で、数値計算に組み込めるような連続的なパラメター化すらなされていない。また、H2O と CO2 を両方含む系についてはさらに複雑であり、実験データはさらに少ない。先行研究の実験結果および熱力学的制約に矛盾しないように、CO2(0~5 wt.%)・H2O(0~1 wt.%)・温度(0~2000 ℃ )・圧力(0~12 GPa)の範囲でパラメター化を行った。
CO2 単独の効果は2.2 GPa 以下の低圧領域では CO2 がガスとして存在し、融点降下の影響は僅かであるが、2.2 GPa を超えたところでは CO2 がmagnesiteなど炭酸塩鉱物に固定され、約200 ℃ 融点温度を下げる。これは、carbonatite meltが岩石に主要なsilicateと親和性が悪く、silicate meltに先行して溶融することに関係する。この非親和性は溶融の様子にも表れ、carbonatite meltは融点温度に到達すると一気に生じ、carbonatite meltに遅れてsilicate meltが生じる。
H2O・CO2 両流体が共存する場合、相平衡や流体組成は一層複雑である。低圧領域においては、CO2 ガスが H2O に取り込まれることで H2O の活動度を低下させ、H2Oの融点温度を下げる効果を阻害する。これにより、2.2 GPa 以下においてはH2Oだけの場合に比べて CO2 が加わることで融点温度は微増する。2.2 GPa 以上では、CO2 とH2O の効果が相乗的に機能するため融点はさらに低い温度となる。その効果が最大となるのは3 GPa の圧力条件で、ソリダス温度は850 ℃ まで低下する。このパラメター化により、将来的には、CO2 による融点温度降下とメルト生成の条件を、2相対流シミュレーションに組み込み、CO2-H2O-ケイ酸塩の広い組成をカバーした沈み込み帯での流体現象・物質循環の検証が可能となる。