日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC44] 島弧の火成活動と火山ダイナミクス

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、中村 仁美(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)、入山 宙(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:鈴木 雄治郎(東京大学 地震研究所)、入山 宙(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

10:00 〜 10:15

[SVC44-05] 高含水量マグマに由来する米山層ソレアイト系列火山岩で見られる角閃石の分別

*相澤 正隆1岡村 聡2新城 竜一1高橋 俊郎3 米山団体研究グループ (1.琉球大学 理工学研究科、2.北海道教育大学札幌校、3.新潟大学 理学部)

キーワード:角閃石の隠れた分別、ソレアイト系列、含水マグマ、下部地殻、北部フォッサマグナ、Ca角閃石

北部フォッサマグナ北東部の日本海沿岸に分布する米山層は,後期鮮新世~前期更新世に活動した玄武岩~安山岩質の溶岩,火山砕屑岩を主体とし,しばしば角閃石斑れい岩や角閃石巨晶を捕獲する.筆者らはこれまでに,本層火山岩類の岩石学的特徴として,Gill(1981)の中間~高K系列に属し,ソレアイト(TH)系列火山岩が卓越することを明らかにし,これらの火山岩は角閃石の分別作用が顕著に生じた高含水条件のマグマに由来したと主張している(相澤ほか, 2017).本発表では,TH系列火山岩において含水マグマからの「角閃石の隠れた分別作用」が生じていた可能性について考察した.

本層火山岩類は,斑晶鉱物組み合わせの特徴から,かんらん石-単斜輝石玄武岩~玄武岩質安山岩(以下,Ol玄武岩),単斜輝石±直方輝石玄武岩~安山岩(Px安山岩),普通角閃石±単斜輝石±直方輝石玄武岩~安山岩(Hbl安山岩)に区分される.全岩SiO2含有量の増加に伴い,Ol玄武岩,Px安山岩,Hbl安山岩と岩石タイプが変化する.希土類元素(REE)は,高い軽希土類元素とやや凹んだ中間希土類元素の規格化パターンを示し,中間希土類元素と重希土類元素の比(Dy/Yb)はHbl安山岩でより低くなる.角閃石は中間希土類元素の分配係数が高いことから,同比の減少は角閃石の分別を示唆する.マスバランス計算とレイリー分別計算の結果,本地域の最も未分化な玄武岩から,斑晶鉱物として含まれているかんらん石,単斜輝石,斜長石を分別させても,ほとんどのOl玄武岩やPx安山岩のREEパターンを説明できなかった.一方,斑晶としては含まれない普通角閃石を分別相に加えると実際のREEパターンと良い一致を示す.また,角閃石斑れい岩中の角閃石と角閃石巨晶の化学組成を用いて,Putirka (2016)の式により復元した晶出時のマグマのSiO2含有量は,50~59 wt%を示し,玄武岩組成のマグマにおいて,既に角閃石の分別作用が生じていた可能性を示唆する.

角閃石は低圧ほどソリダス温度が低くなるため,マグマ上昇中の減圧によりマグマ温度が角閃石のソリダスを超え,角閃石が分解してしまう(角閃石の隠れた分別作用:Davidson et al., 2007).本層火山岩中の角閃石斑晶や,捕獲された角閃石斑れい岩,角閃石巨晶の組成は,高温で安定なパーガス閃石成分が卓越し,角閃石地質温度・圧力計(Ridolfi and Renzulli, 2012; Putirka, 2016)の結果は,789-1033℃,204-1857 MPaを示す.つまり,少なくともモホ面付近の深度で角閃石が晶出し始めている.TH系列火山岩には,角閃石を斑晶として含む玄武岩(Hbl-Cpx-Opx)が見られる.この玄武岩中の角閃石斑晶は,gabbroic type(Garcia and Jacobsen, 1979)と呼ばれる,細粒な単斜輝石,直方輝石,斜長石,磁鉄鉱からなるオパサイト縁が発達する.このタイプのオパサイト縁はマグマ混合による加熱分解や非平衡メルトとの接触,あるいは減圧による脱水分解により生成されると考えられている.本玄武岩中にマグマ混合を示唆する記載的証拠は見つからないことから,減圧による分解と推定される.

TH系列火山岩においても含水鉱物である角閃石の分別が生じていたことは,起源マグマが高いH2O量であったことが予想される.斜長石−メルト間のCa-Na分配を用いた含水量計(Ushioda et al., 2014)の結果は,TH系列火山岩でも最大5 wt%に達する高いH2O量であったことが示された.



引用文献
相澤ほか(2017)日本地球惑星科学連合大会要旨, SCG73-P14.
Davidson, J. et al.(2007)Geology, 35, 787-790.
Garcia, M. O. and Jacobsen, S. S.(1979)Contrib. Mineral. Petrol., 69, 319-327.
Gill, J. B.(1981)Orogenic andesites and plate tectonics. Berlin, Springer, 390p.
Putirka, K.(2016)Amer. Mineral., 101, 841-858.
Ridolfi, F. and Renzulli, A.(2012)Contrib. Mineral. Petrol., 163, 877-895.
Ushioda, M. et al.(2014)Earth Planet. Sci. Lett., 66:127, 1-10.