12:00 〜 12:15
[SVC44-12] 空振解析とサーマル近似による噴煙体積推定
キーワード: 空振、火山噴煙
火山噴火に伴い発生する音波は空気振動(空振)と呼ばれ、現在多くの火山において活動監視や噴火過程理解のために空振観測が行われている。ブルカノ式噴火に代表される時定数の短い噴火に伴う空振は、パルス状の空振波形が記録されることが特徴的である。こうした増圧波形の励起源に対しては、火口に点源を仮定し、点源における体積変化によって波形を説明するという定量化が試みられてきた(例えば、Oshima and Maekawa, 2000)。しかし、空振解析で得られる積算体積Vinfは、映像解析などによって推定される見かけの噴煙の体積に比べると一桁程度小さいことが報告されている。この不一致の理由として、Vinfの推定には周辺大気の取り込みなどの噴煙特有の物理過程が反映されていないことなどが指摘されてきた(例えば、Yamada et al., 2017)。近年の観測システムにおいては、空振データはリアルタイムに伝送可能なことから、波形解析によって音源を簡便に定量化することができれば、噴火発生時に噴火規模や噴出量などを即時的に評価する手法として有効であると期待される。そのため、推定されるVinfに対して物理的な解釈を与えることが重要である。パルス状の空振波形を励起する時定数の短い噴火に伴う噴煙は、サーマルに近似することでモデル化がなされている(例えば、Woods and Kienle, 1994)。Terada and Ida (2007)は、ブルカノ式噴火などに伴う噴煙をサーマルに近似することで、噴煙の到達高度と大気密度の鉛直構造から、サーマルが上昇開始時に保持している浮力を推定する手法を提案している。サーマルの浮力はサーマルの体積Vthと重力加速度、サーマル内外の密度差の積で与えられる。本研究では、サーマルの初期浮力の推定値から導出される体積Vbに着目する。空振解析で得られるVinfとVbの関係を調べることで、Vinfの値の性質についての検討を行った。
空振解析で得られる体積Vinfを推定するため、霧島山新燃岳、阿蘇山、Lokon-Empungの三つの火山で発生した空振波形を解析した。また、他の火山(桜島、口永良部島)で先行研究によって報告されているVinfの値も引用した。Vbの推定においては、気象庁などの各機関から公表されている噴煙到達高度と高層大気データのデータを用い、Terada and Ida (2007)の手法に従いサーマルの初期浮力を推定した。浮力から体積を推定するため、本研究ではサーマルに関する先行研究を参考に、地表付近でのサーマル内外の密度差を0.3±0.2 kg/m3と仮定している。5つの火山で発生したスケールの異なる53のイベントを対象に、推定したVbとVinfの比率Vb/Vinfを調べた。Vb/Vinfの値はほぼ全てのイベント(51イベント)において1以上となり、大半の33のイベントにおいて3.0–3.0×101の範囲に分布する。サーマルが自己相似性を持つことから、Vb/Vinfの関係も線形になることを仮定し、近似式を推定したところ、Vb/Vinf=1.6×101という関係が得られた。
Vinf推定に用いた空振波形は、いずれも初動付近の大振幅のパルス状の位相を有している。そのため、波形解析で得られるVinfは、噴火の初期段階において励起された信号を主に反映していると考えられる。噴火の開始直後において、噴煙の運動が火口からの上向きの運動量のみで駆動される領域はjetとも呼ばれ、ほとんど周辺大気取り込まないことが報告されている(例えば、Patrick 2007)。一方でVthに関しては、噴煙が周辺大気を取り込むことで新たな浮力を獲得した段階の体積であることが推定される。双方の噴煙レジームにおける密度の観測値や理論値を参考にすると、jetからサーマルに遷移するまでの体積変化率はおよそ1.8–3.2×101程度と期待される。この範囲は、我々が推定したVb/Vinfの値の範囲とよく一致する。本研究の解析には噴煙高度推定精度、エントレインメント係数、音源の点近似の妥当性などのいくつか考慮すべき誤差要因が存在することに注意が必要である。そのため、空振励起場の研究は詳細な映像や空振観測などによって明らかにしてく必要がある。一方で、本研究が推定したVb/Vinfの関係は、空振波形の解析によって噴煙体積や噴煙到達高度などに代表される噴火規模を評価する一指標として用いることができるかもしれない。
空振解析で得られる体積Vinfを推定するため、霧島山新燃岳、阿蘇山、Lokon-Empungの三つの火山で発生した空振波形を解析した。また、他の火山(桜島、口永良部島)で先行研究によって報告されているVinfの値も引用した。Vbの推定においては、気象庁などの各機関から公表されている噴煙到達高度と高層大気データのデータを用い、Terada and Ida (2007)の手法に従いサーマルの初期浮力を推定した。浮力から体積を推定するため、本研究ではサーマルに関する先行研究を参考に、地表付近でのサーマル内外の密度差を0.3±0.2 kg/m3と仮定している。5つの火山で発生したスケールの異なる53のイベントを対象に、推定したVbとVinfの比率Vb/Vinfを調べた。Vb/Vinfの値はほぼ全てのイベント(51イベント)において1以上となり、大半の33のイベントにおいて3.0–3.0×101の範囲に分布する。サーマルが自己相似性を持つことから、Vb/Vinfの関係も線形になることを仮定し、近似式を推定したところ、Vb/Vinf=1.6×101という関係が得られた。
Vinf推定に用いた空振波形は、いずれも初動付近の大振幅のパルス状の位相を有している。そのため、波形解析で得られるVinfは、噴火の初期段階において励起された信号を主に反映していると考えられる。噴火の開始直後において、噴煙の運動が火口からの上向きの運動量のみで駆動される領域はjetとも呼ばれ、ほとんど周辺大気取り込まないことが報告されている(例えば、Patrick 2007)。一方でVthに関しては、噴煙が周辺大気を取り込むことで新たな浮力を獲得した段階の体積であることが推定される。双方の噴煙レジームにおける密度の観測値や理論値を参考にすると、jetからサーマルに遷移するまでの体積変化率はおよそ1.8–3.2×101程度と期待される。この範囲は、我々が推定したVb/Vinfの値の範囲とよく一致する。本研究の解析には噴煙高度推定精度、エントレインメント係数、音源の点近似の妥当性などのいくつか考慮すべき誤差要因が存在することに注意が必要である。そのため、空振励起場の研究は詳細な映像や空振観測などによって明らかにしてく必要がある。一方で、本研究が推定したVb/Vinfの関係は、空振波形の解析によって噴煙体積や噴煙到達高度などに代表される噴火規模を評価する一指標として用いることができるかもしれない。