10:45 〜 11:25
[U05-05] 実践コミュニティが支える永続的識別子とオープンな学術基盤
★招待講演
キーワード:persistent identifiers、community of practice、scholarly infrastructure、scholarly communication、open science
本講演では、PID (Persistent Identifiers)と呼ばれる永続的なディジタル識別子の発展状況を概観するとともに、PIDの提供者と利用者が一丸となってその実践を行うコミュニティ(Community of Practice)の事例を紐解き、オープンサイエンスを支える学術基盤のあり方について論じる。
PIDの近年の発展状況
1990年代後半に出版コミュニティからの提案により立ち上がったDOI (Digital Object Identifier)システムは、20年を経た現在、電子ジャーナル掲載論文だけでなく、オンライン上に存在するあらゆる研究成果物の所在を永続的に示すための標準識別子として広く普及している。研究プロセスに関わる個人を同定するための識別子であるORCID(Open Researcher and Contributor ID)も、2017年にサービス開始から5周年を迎えた時点で登録者は400万人を超え、一ヶ月に10万人単位で急速に拡大している。DOIの提供事業者であるCrossref(https://www.crossref.org)やDataCite(https://www.datacite.org)、ORCIDを提供するORCID, Inc.(https://orcid.org)などが中心となって呼びかけを行っている新しいPIDである機関識別子 (Organization ID)は、2018年初頭までに技術仕様やガバナンスに関する提案を行い、中立的で非営利な運営団体の設立を目指すこととなった。PIDについて広く議論するための会議であるPIDapalooza(https://pidapalooza.org)は、2016年11月に続いて2018年1月に第2回目の会合を開催し、研究助成金や研究施設、研究プロジェクト、プロトコルなどあらゆる単位の情報についてのPID付与の仕組みや運用可能性、またPIDが支えるオープンな学術基盤や、研究コミュニティのあり方そのものについての議論が活発に行われた。
実践コミュニティ(Community of Practice)
Wenger(1998)は、あるトピックについて問題意識を共有し、それに関する実践的な知識や技能を持続的な相互交流を通じて深め合う集団を「実践コミュニティ」(以下CoP)と定義している。CoPモデルでは、知識や情報を持つ実践者どうしが組織の枠を超えてつながることによって、形式知と暗黙知の相互補完的な関係を発展させることができるという。CoPが成立するためには、(1) 領域(参加者が熱意を持って取り組むべき専門分野)、(2) コミュニティ(参加者が交流する場)、(3) 実践(参加者が実践する活動)が存在する必要があり、さらにCoPが効果的に機能するためにはコーディネーターの役割が重要であるとされている。
CoIからCoPへの転換
学術コミュニケーションの世界では、Research Data Alliance(https://www.rd-alliance.org)などの実践コミュニティが活発に活動を展開し、実践者が国・地域や組織の枠組みを超えて広く交流する場(会合やメーリングリスト)を提供している。ORCIDのコンソーシアムもCoPにならい、各コンソーシアムが明確な目的意識とアイデンティティのもと、ORCIDのシステム導入に必要な知識と経験をそれぞれの文脈で共有するための場の形成、実践者の育成に寄与している。いずれも、さまざまなステークホルダーから成るワーキンググループや理事会などが発足し、コミュニティの将来に向けた多くの提案を自発的に行っているのが特徴的である。そもそも学術コミュニティは、アカデミーや各種学術団体などの興味や関心を同じくするグループ(Community of Interest、以下CoI)を基礎として発展したものであるが、科学技術政策においてオープンサイエンスの重要性が増す現在、CoIから実践知識や経験を共有して自ら新たな地平を拓くCoPへの転換が迫られている。
Wenger, Etienne (1998). Communities of Practice: Learning, Meaning, and Identity. Cambridge: Cambridge University Press. ISBN 978-0-521-66363-2.
PIDの近年の発展状況
1990年代後半に出版コミュニティからの提案により立ち上がったDOI (Digital Object Identifier)システムは、20年を経た現在、電子ジャーナル掲載論文だけでなく、オンライン上に存在するあらゆる研究成果物の所在を永続的に示すための標準識別子として広く普及している。研究プロセスに関わる個人を同定するための識別子であるORCID(Open Researcher and Contributor ID)も、2017年にサービス開始から5周年を迎えた時点で登録者は400万人を超え、一ヶ月に10万人単位で急速に拡大している。DOIの提供事業者であるCrossref(https://www.crossref.org)やDataCite(https://www.datacite.org)、ORCIDを提供するORCID, Inc.(https://orcid.org)などが中心となって呼びかけを行っている新しいPIDである機関識別子 (Organization ID)は、2018年初頭までに技術仕様やガバナンスに関する提案を行い、中立的で非営利な運営団体の設立を目指すこととなった。PIDについて広く議論するための会議であるPIDapalooza(https://pidapalooza.org)は、2016年11月に続いて2018年1月に第2回目の会合を開催し、研究助成金や研究施設、研究プロジェクト、プロトコルなどあらゆる単位の情報についてのPID付与の仕組みや運用可能性、またPIDが支えるオープンな学術基盤や、研究コミュニティのあり方そのものについての議論が活発に行われた。
実践コミュニティ(Community of Practice)
Wenger(1998)は、あるトピックについて問題意識を共有し、それに関する実践的な知識や技能を持続的な相互交流を通じて深め合う集団を「実践コミュニティ」(以下CoP)と定義している。CoPモデルでは、知識や情報を持つ実践者どうしが組織の枠を超えてつながることによって、形式知と暗黙知の相互補完的な関係を発展させることができるという。CoPが成立するためには、(1) 領域(参加者が熱意を持って取り組むべき専門分野)、(2) コミュニティ(参加者が交流する場)、(3) 実践(参加者が実践する活動)が存在する必要があり、さらにCoPが効果的に機能するためにはコーディネーターの役割が重要であるとされている。
CoIからCoPへの転換
学術コミュニケーションの世界では、Research Data Alliance(https://www.rd-alliance.org)などの実践コミュニティが活発に活動を展開し、実践者が国・地域や組織の枠組みを超えて広く交流する場(会合やメーリングリスト)を提供している。ORCIDのコンソーシアムもCoPにならい、各コンソーシアムが明確な目的意識とアイデンティティのもと、ORCIDのシステム導入に必要な知識と経験をそれぞれの文脈で共有するための場の形成、実践者の育成に寄与している。いずれも、さまざまなステークホルダーから成るワーキンググループや理事会などが発足し、コミュニティの将来に向けた多くの提案を自発的に行っているのが特徴的である。そもそも学術コミュニティは、アカデミーや各種学術団体などの興味や関心を同じくするグループ(Community of Interest、以下CoI)を基礎として発展したものであるが、科学技術政策においてオープンサイエンスの重要性が増す現在、CoIから実践知識や経験を共有して自ら新たな地平を拓くCoPへの転換が迫られている。
Wenger, Etienne (1998). Communities of Practice: Learning, Meaning, and Identity. Cambridge: Cambridge University Press. ISBN 978-0-521-66363-2.