日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-07] FutureEarth-GRPsによる地球環境変化研究の統合

2018年5月20日(日) 15:30 〜 17:00 103 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:石井 励一郎(総合地球環境学研究所)、安成 哲三(総合地球環境学研究所)、谷口 真人(総合地球環境学研究所、共同)、Hein Mallee(Research Institute for Humanity and Nature)、座長:石井 励一郎

15:30 〜 15:45

[U07-06] IMBeR(海洋生物圏統合研究)の活動とヴィジョン

★招待講演

*齊藤 宏明1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:海洋生態系、生物地球化学、学際研究、生態系サービス、持続可能な開発目標、フューチャーアース

IMBeR (Integrated Marine Biosphere Research)は、Future Earthのコアプロジェクトであり、2005年に始まった海洋生態系と生物地球化学の統合研究(IMBER: Integrated Marine Biogeochemistry and Ecosystem Research)を前身としている。IGBP/SCORの海洋分野のコアプロジェクトであったIMBERは、変化しつつある海洋生態系と生物地球化学循環が人間社会にどのような影響を与えるかを4つのテーマの1つとして掲げていた。Future Earthの発足を受けて、生物地球化学と生態系研究をさらに推進して海洋システムの統合的な理解を深めると共に、自然科学と社会科学の垣根を超えた海洋統合研究を推進することにより、社会の恩恵のための海洋の持続性の確保を目的とし、IMBeRが設立された。

日本では、黒潮域における効果的な海洋生態系サービスの利用方策策定を目的とした「黒潮生態系変動」が行われている。その中で、貧栄養にもかかわらず魚類生産が高いという“黒潮のパラドックス”解明のため、強い黒潮の流れと海底地形による栄養塩供給機構や、供給された栄養塩が魚類生産に効果的に転送される機構が調べられている。また、どの時期に何を漁獲することが、黒潮の恵みをより効果的に利用することになるかの検討が行われている。また、2012-17年に行われた「新海洋像: その機能と持続的利用」においては、太平洋をカバーする調査航海が行われ、新しい観測・分析技術を駆使して物理・化学・生物パラメータが取得され、データベース解析および数値計算を併せて用いて新しい海洋区系を提案した。この自然科学成果を基に、海洋生態系サービスの価値評価を推定すると共に、価値を決める文化的・心理学的背景が解析され、また海洋のガバナンスのための国際合意形成に必要な条件が明らかにされた。

人口の増加と科学技術の発達により、海洋生態系サービスの需要は高まり、外洋域においてもその利用が進んでいる。このような中、国連では国家管轄外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全及び持続可能な利用に関する新しい法的枠組みを策定するための議論が始まっている。このような国際合意形成課程においては、適切なタイミングで十分な科学的知見の提供による、科学に基づく決定が重要であるが、公海域における生物多様性やそれを成立させる海洋環境についての理解は十分ではない。国内外のFuture Earthプロジェクトと連携しつつ、日本のIMBeRコニュニティーによる早急な海洋生物多様性の把握とその知見の提供が、よりよい国際法の成立と、持続的な海洋の利用のために求められている。