日本地球惑星科学連合2019年大会

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[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS02] 台風研究の新展開~過去・現在・未来

2019年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 104 (1F)

コンビーナ:金田 幸恵(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、和田 章義(気象研究所台風・災害気象研究部)、伊藤 耕介(琉球大学)、宮本 佳明(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:金田 幸恵(名古屋大学)、和田 章義(気象研究所)

09:30 〜 09:45

[AAS02-03] 270メンバーのアンサンブル実験から得られた急発達開始前の熱帯低気圧の構造変化

*宮本 佳明1David Nolan2 (1.慶應義塾大学 環境情報学部、2.Rosenstiel School of Marine and Atmospheric Science, University of Miami)

キーワード:熱帯低気圧、急発達

強い強度まで達する熱帯低気圧(Tropical Cyclone: TC)の多くが、その生涯に一度、急速に発達する過程(Rapid Intensification: RI)を経験している。防災上も重要となり、また、急激な強度変化の予測が難しいことから、近年盛んに研究されている。RIの研究には様々なものがあるが、RIそのもののメカニズムがまだ分かっていないことに加えて、一度RIが開始すると一気に強い強度まで達するため、RIが開始するメカニズムも重要なトピックである。



RIの開始メカニズムについて、これまでに観測データや数値シミュレーション結果を用いて研究がなされて来た。例えばMiyamoto and Takemi (2013, 2015) は、理想条件下でのシミュレーション結果から、渦が軸対称化し、最大風速半径より内側で熱的に不安定化する一方、境界層内で水平収束が最大となる半径が外側に移り、十分に最大風速半径に接近した時に眼の壁雲が形成し、RIが始まるというメカニズムを提案した。しかし彼らは鉛直シアーが無い時のみを調べており、より現実的な状況下での考察が必要となる。他の研究でも個々のTCのシミュレーションを行って結果を調べているのがほとんどで、一方で観測データを用いると時空間的に連続なデータを得ることが難しいため統計的に調べる研究がほとんどであり、普遍的なメカニズムは未だ不明である。



そこで本研究では、様々な環境下で発達するTCのRI開始前のメカニズムを明らかにするため、RIに重要と考えられるパラメータを変えた270アンサンブルのシミュレーションを実行した。その結果、RIを経験する・しないTCの頻度や、強度変化がこれまでの観測研究と整合的であった。また、鉛直シアーがあるときは、多くのTCがRI開始前に対流による上層の渦度強化で、直立した渦構造を作っていたことが分かった。その後に、Miyamoto and Takemiで提案したRI開始メカニズムによってRIが始まっていることが示された。