日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS04] 大気化学

2019年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 102 (1F)

コンビーナ:中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院)、江口 菜穂(Kyushu University)、座長:中川 書子(名古屋大学)

09:00 〜 09:30

[AAS04-01] アイスコアによる過去の大気エアロゾルの復元とその変動要因

★招待講演

*飯塚 芳徳1植村 立2藤田 耕史3服部 祥平4関 宰1大島 長5大野 浩6的場 澄人1 (1.北海道大学低温科学研究所、2.琉球大学理学部、3.名古屋大学環境学研究科、4.東京工業大学、5.気象研究所、6.北見工業大学)

キーワード:アイスコア、古環境復元、エアロゾル

アイスコアは古環境を復元できるアーカイブ(記録媒体)である. 海底堆積物などの他のアーカイブと比較して, アイスコアは降水(雪)が媒体であるため大気環境の復元, 特に大気成分(ガス)や沈着したエアロゾルを復元できる長所がある. 南極やグリーンランドにはドームと呼ばれる氷床頂上がいくつかあり, 氷床ドームでは1) 標高が高いことから比較的広範囲から排出した大気エアロゾルが沈着していること, 2) 氷床流動による氷体移流が無視でき, 過去まで同じ地点での降雪の情報を保持していることなどの利点がある. そのため, 近年の氷床掘削はドームで行われることが多い.

本発表ではまず, アイスコアで最も古い過去まで復元できる南極氷床ドームからの過去のエアロゾルに関するいくつかの研究成果を紹介し, 約10万年間の氷期間氷期変動などに代表される気候変動に応じた過去80万年間の各種エアロゾル(海塩・ダスト・硫酸塩など)の濃度(もしくはフラックス)変動とその変動要因を述べる. アイスコア分野では地球上で最も古い連続なアイスコアアーカイブを取得すること(oldest ice project)が国際的なトレンドであり, 南極氷床ドームは本分野のトピックの一つである.

その後, 発表者らが現在行っているグリーンランド南東ドームアイスコアのプロジェクトの成果と展望を紹介する. 南極と比較して, グリーンランドのドームは涵養量(ほぼ降水量と同義)が多い. 南東ドームはグリーンランドでもとりわけ涵養量が多い地域(水等量で年間約1.0 m)で, 他のグリーンランドドームの約4倍, 南極ドームの約30倍もの雪が堆積する. 高涵養量であることは, より古い時代の環境復元には適さないため, 南東ドームでのアイスコア掘削は敬遠されてきた. しかしながら, 涵養量が多いことはより時間分解能の高い環境復元を可能にし, 沈着したエアロゾルの変態や損失が起きにくいという長所がある. そのため, 人新世(1750-現在)など近過去を精密に復元するには適したアイスコアであるといえる. 発表者らは2015年に90mのアイスコアを掘削し, 1960年から2014年までの北極大気の沈着エアロゾルを復元し, その変動要因を考察した. その結果, アイスコア中の硫酸エアロゾルフラックスは周辺国のSOx排出量の変動とよく似た傾向を示したが, 硝酸フラックスはNOx排出量とは異なり, 現在でも増加し続けていることが分かった. 発表者らは2020年に2本目となるグリーンランド南東ドームでより深いアイスコアを取得し, 人新世(1750-2020)のエアロゾルの変遷要因を氷床ドームアイスコア研究史上最も高い時間分解能で解読するプロジェクトを進行している. プロジェクトの詳細を紹介しつつ, 大気化学分野の皆様方との新しい連携研究の橋頭保としたい.