日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS04] 大気化学

2019年5月29日(水) 15:30 〜 17:00 102 (1F)

コンビーナ:中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院)、江口 菜穂(Kyushu University)、座長:石島 健太郎(気象研究所)

16:00 〜 16:30

[AAS04-13] 地球観測衛星による陸域生態系炭素固定機能のリモートセンシング

★招待講演

*野田 響1吉田 幸生1押尾 晴樹1清野 友規1宮内 達也1松永 恒雄1 (1.国立研究開発法人国立環境研究所)

キーワード:植生リモートセンシング、太陽光励起クロロフィル蛍光、GOSAT

産業革命以降,化石燃料の燃焼などの人間活動により大気中の二酸化(CO2)濃度は増加を続けており,地球規模での気候変動は年々深刻化している。この問題に効果的に対処するためには,生化学過程を含む,CO2放出と吸収についてのメカニズムについて理解することが重要である。陸域生態系は,植物の光合成により大気中のCO2を固定して炭水化物を生産することにより,生物圏と大気圏との炭素循環を駆動するという重要な役割を担っている。陸域生態系の光合成過程は,人為的に排出されるCO2の約3割を陸上生態系により固定するとされる。一方で,生化学的な応答過程である光合成過程は気温や日射,降水量などの環境条件の影響を受ける。そのため,地域スケールなどの広域での光合成量の推定値には大きな不確実性が伴う。さらに,近い将来の気候変動下では,光合成生産も大きく変化しうると予想される。したがって,有効な温暖化緩和策を立てるためには,広域での陸域生態系の光合成量の空間分布を把握することが不可欠である。
地球観測衛星によるリモートセンシングは,陸上生態系の特性について広域での時空間変動を把握する上で強力な手法である。これまで,衛星により観測された植生の反射特性より,生態系の構造や生理的な特性を把握し,それらから光合成生産量を推定する試みが広く行われてきた。近年では,温室効果ガス観測技術衛星GOSATのような高波長分解能センサーを持つ衛星の登場により,太陽光励起クロロフィル蛍光(SIF)の人工衛星による観測が可能になった。現在,SIFは,GOSATやGOSAT-2の他,GOME-2やOCO-2など大気観測をメインミッションとした衛星により副次的に観測されている。クロロフィル蛍光は植物が光合成の際に微弱な光であることから,SIFは従来の光学的指標よりも光合成活性と密接に関連していると考えられ,これを利用して光合成活性や生産量を把握する試みが行われている。
本発表では,これまで講演者が取り組んできた人工衛星を利用した陸域植生の光合成生産量の推定研究を紹介すると共に,GOSATおよびGOSAT-2が観測するSIFを利用した研究の将来展望について議論する。