日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS04] 大気化学

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 103 (1F)

コンビーナ:中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院)、江口 菜穂(Kyushu University)、座長:中島 英彰(国立環境研究所)

16:30 〜 16:45

[AAS04-31] 全球大気光化学場における雲分布の役割

*松田 涼樹1須藤 健悟1,2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻、2.海洋研究開発機構)

キーワード:雲、化学気候モデル、オゾン、OHラジカル

大気中の化学反応は、オゾン(O3)やメタン(CH4)、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)やエアロゾルの生成・消滅に直接関与し、大気環境や気候変動に与える影響も大きい。このような大気化学反応はO3等の紫外線による光解離反応によって駆動されるため、雲分布に大きく左右されると考えられる。本研究では主に対流圏の大気化学場に対して、雲分布が光解離過程を介してどのような役割を演じているか、全球化学輸送モデル(化学気候モデル)と観測(衛星・航空機)データを組み合わせることで、定量的な推定・検証を行った。
まず初めに、使用する全球化学気候モデル「CHASER」上の雲分布が現実的であるか、衛星観測データ(ISCCPのD2データ)を用いて検証を行った。この結果、モデルは衛星データに見られる雲量の全球分布を概ね再現できていることが確認された。
次に上述のモデルを用いて、雲による光解離過程変動を通じた全球大気化学場への影響を感度実験により推定した。この結果、OHラジカル濃度は地表面付近で10~20%減少するとともに、上部対流圏では10~20%増加することが示された。これは低中層雲による太陽光の散乱・反射効果を反映したものであり、先行研究とも整合的である。大気の酸化能力の指標でもある全球平均OH濃度は、雲の光解離影響によって約12%増加し、また対流圏O3の全球平均濃度は約0.7%増加する結果となった。
さらに、南北太平洋の広域において展開された航空機による大気化学観測のデータ(NASAのATOM-1)を用いて、先の感度実験で確認した雲による大気化学場への影響の妥当性を検証した。この結果、OH、O3ともにモデル中の光解離計算で雲を考慮した方が現実の大気化学場をより正確に再現することが確認された。また雲を考慮したことによる各濃度の変動傾向は、上述の全球濃度場の変動傾向と整合的であった。
以上より、雲の存在による光解離過程への影響は全球大気化学場、特にOH濃度場を大きく左右することが定量的に示された。OHはCH4や一酸化炭素(CO)、CFCs等、気候やオゾン層に影響を及ぼす重要物質の濃度を支配している。したがって、雲分布の変動がこれらの物質分布を大きく変化させ、気候・大気環境変動に付加的な影響を及ぼす可能性が示唆される。