日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS04] 大気化学

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院)、江口 菜穂(Kyushu University)

[AAS04-P16] 化学気候モデルによる北太平洋及び北極海における黒色炭素の起源推定と混合状態の考察

*大西 貴都1須藤 健悟1,2金谷 有剛2竹谷 文一2 (1.名古屋大学 大学院環境学研究科、2.海洋研究開発機構)

キーワード:黒色炭素、化学気候モデル、湿性沈着、北極海、太平洋

黒色炭素(BC)はバイオマスや化石燃料の燃焼によって大気中に排出される。大気中のBCは可視光を吸収し、大気を加熱するため地球温暖化に寄与していると考えられている。排出直後の外部混合状態のBCは疎水性であり、雲凝結核としては取り込まれにくく、降水沈着の影響を受けにくいので、長距離輸送される可能性がある。輸送されたBCが雪氷面に沈着すると、BCの強い可視光吸収性により、アルベドを下げ雪氷の融解を促進する。
本研究では、北半球高緯度域におけるBCの長距離輸送に着目し、大気化学モデルCHASERによるタグトレーサー計算を用いて、ソース域・起源ごとの寄与推定を行った。BC計算については、海洋研究開発機構・みらいの船上観測(8-9月)で得られたBCデータを用いて評価および解釈を実施した。その結果、北緯70度以南の太平洋域では~7倍程度の過大評価となり、日本近海では観測との差は小さいが、東経160度から180度の範囲では強い過大評価を示した。一方で北緯70度以北ではモデルが13倍~60倍の過大評価を示し、北極海域ではモデルが観測に対して大幅に過大評価している傾向が確認された。またBCの起源としては北太平洋ではシベリア・北アメリカ・中国の寄与が大きく、北極海ではシベリア、北アメリカの寄与が大きいことが示唆された。
BCの過大評価傾向は、モデル内の降水による湿性沈着が過小であることを示している可能性がある。しかしながら、モデル内で計算されている降水場は、ERA-Interim等と比較すると、むしろ過大評価であった。このことから、BCの雲への取り込み率の過小評価など、湿性沈着スキームに不整合がある可能性が示唆される。そこでモデルにおける降水とBCの湿性沈着の関係を評価するために、BCの湿性沈着フラックスを大気中のBCの存在量で正規化した値と降水の相関係数を求めた結果、0.4程度となり、降水によるBCの除去が弱いことが示唆された。さらに2014-2017年の地表から対流圏下層におけるBC濃度に対する内部混合BCの比率(混合比)を求めたところ、北極域~北太平洋高緯度域で30%程度となり、BCの過大評価が卓越する領域においては、疎水性の外部混合BCの寄与が支配的であることが確認された。
以上のことから、外部混合から内部混合への変質過程(aging)の表現や、外部混合BCの湿性沈着の計算に改良の余地が大きいことが示唆される。なお発表時には過大評価をより低減させた結果についても紹介したい。