日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS05] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2019年5月29日(水) 13:45 〜 15:15 201B (2F)

コンビーナ:河谷 芳雄(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、渡辺 真吾(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、関谷 高志(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、座長:河谷 芳雄

14:15 〜 14:45

[AAS05-11] 冬季から初夏における南半球大気のQBOに対する応答

★招待講演

*山下 陽介1直江 寛明2井上 誠3高橋 正明4 (1.海洋研究開発機構、2.気象研究所、3.秋田県立大学、4.国立環境研究所)

キーワード:準2年周期振動、南極渦、重回帰分析

赤道成層圏には準2年周期振動(QBO)と呼ばれる卓越した変動が存在し,西風と東風が交互に現れ下降する振動現象で特徴付けられる.QBOは赤道域周辺の循環に加え北半球極渦強度にも影響することが知られており,中高緯度の波や循環の変化とも関係すると言われている(例えば,Plumb and Bell 1982;Holton and Tan 1980).他方QBOの南半球極渦強度への影響については,関係性を見出した際に用いられたQBO位相を定義する高度や定義方法が複数あり(例えば,Garcia and Solomon 1987;Baldwin and Dunkerton 1998;Naito 2002;Hitchman and Huesmann 2009),また手法として用いられてきたコンポジット平均の差には太陽周期やエルニーニョ・南方振動(ENSO)など他の年々変動の影響を含む可能性が残っている.そこで,本研究ではQBO位相の定義方法を工夫し,線形重回帰分析を用いて長期間のJRA-55客観解析データからQBOの影響と他の変動の影響とを分離することでQBOの南極渦への影響プロセスを調べた.重回帰式には中部成層圏に極値を持つQBO,下部成層圏に極値を持つQBOの項の他に等価実効成層圏塩素(EESC),太陽周期,ENSO,火山噴火の項を説明変数として加えた.重回帰式の説明変数とした中部成層圏QBO,及び下部成層圏QBOの項を分析することで,南半球の冬季から初夏においてQBOが南半球極渦に影響を与える2つの経路を示唆する結果を得た.まず1つ目の影響経路として,中部成層圏QBOに伴う二次循環が低緯度域の南半球大気応答を引き起こし,さらに高緯度域の応答をもたらすというプロセスを見出した.これにより季節進行の中で南極渦の中心軸が下降している速さが,QBO 西風年の8〜11月に高緯度域(60ºS付近)で遅くなりやすい.1つ目の影響経路では南半球晩冬の8月において南極渦が一時的に弱まる応答を説明できていなかったが,応答を説明できていない部分を詳細に調べることで2つ目の影響経路を見出した.2つ目の影響経路は,8月において下部成層圏QBOが南半球中高緯度域の対流圏から成層圏への惑星波の上向き伝播の増大を引き起こすプロセスで,このプロセスを含めると8月に南極渦が一時的に弱まる傾向も矛盾なく説明可能である.