日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] アイスコアと古環境モデリング

2019年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 201B (2F)

コンビーナ:植村 立(琉球大学 理学部)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)、竹内 望(千葉大学)、座長:植村 立(琉球大学)、大藪 幾美(国立極地研究所)

09:00 〜 09:15

[ACC26-01] 気象研究所地球システムモデルによる過去再現実験での北極域のエアロゾルと気候変動

★招待講演

*大島 長1田中 泰宙1神代 剛1出牛 真1相澤 拓郎1保坂 征宏1川合 秀明1行本 誠史1飯塚 芳徳2東 久美子3青木 輝夫4 (1.気象研究所、2.北海道大学低温科学研究所、3.国立極地研究所、4.岡山大学)

キーワード:エアロゾル、気候モデル、アイスコア、気候変動、環境変動、北極

大気中のエアロゾルは、太陽放射を散乱・吸収し、また雲の微物理特性を変調することにより、地球の放射収支を変化させる。しかしながら、従来の気候モデルでは北極域におけるエアロゾルの再現性が不十分であり、これまでのエアロゾルによる気候影響評価には大きな不確定性が含まれていた。
気象研究所では、気象研究所地球システムモデルMRI-ESM1に数多くの改良を実施することで、第6期結合モデル比較計画CMIP6に向けた新しいバージョンのモデルMRI-ESM2を開発した。MRI-ESM2は大気モデル(水平解像度約120 km)、海洋モデル、エアロゾルモデル(水平解像度約180 km)、大気化学モデル(水平解像度約280 km)が結合して構成され、大気の鉛直解像度は80層(上端0.01 hPa)である。MRI-ESM2では、近年の北極域におけるエアロゾルの再現性が従来と比べて大きく向上したため、本研究ではこのモデルを用いて、エアロゾルが産業革命前から現在までの北極域の気候変動に及ぼす影響評価を行っている。
MRI-ESM2を用いて、CMIP6で提供されている排出量データや境界条件を与えて、CMIP6過去再現実験(1850-2014年)を実施した。モデル計算結果の再現性を検証するために、グリーンランドにおけるアイスコア観測との比較を行った。この比較では、CMIP6排出量データを用いたMRI-ESM2計算、CMIP5排出量データを用いたMRI-ESM2計算、CMIP5排出量データを用いた従来モデル(MRI-ESM1)計算の3種類を用いた。グリーンランド南東ドーム(SE-Dome)でのアイスコア中の硫酸塩エアロゾルと比較したところ、従来モデルは観測を大幅に過小評価したが、MRI-ESM2は良い再現性を示した。またSE-Domeでの硫酸塩エアロゾルの沈着量は、冬季は人為起源の影響が主要であったのに対し、夏季は自然起源の影響も大きいことが示唆された。次に、D4サイトでのアイスコア中のブラックカーボンと比較したところ、CMIP6排出量を用いたMRI-ESM2計算は20世紀前半の濃度増大を再現できなかった。一方、CMIP5排出量を用いたMRI-ESM2計算は、期間全体では過大評価するものの、20世紀前半の濃度増大を再現した。これは、CMIP6で提供されているブラックカーボンの排出量が、CMIP5で提供された排出量に比べ、19世紀後半から20世紀前半にかけて北米域とヨーロッパ域で大きく減少していたことが原因と考えられ、ブラックカーボンの排出量データには未だ大きな不確定性が含まれていることを示唆している。MRI-ESM2によるCMIP6過去再現実験では、エアロゾルが北極域の気温変化に重要な役割を果たす結果が示唆されている。MRI-ESM2による地上気温変化を観測結果と比較したところ、全球平均・北極圏平均ともに、従来よりも再現性が向上した。これらの結果は、気候モデルの予測精度向上のためには、高精度・高時間分解能のアイスコア観測・分析が必要であるとともに、アイスコアデータの解釈における気候モデルの有用性を示している。