[ACC26-P02] 走査型電子顕微鏡(SEM)を用いたグリーンランドSIGMA-Dアイスコア中の過去100年間の鉱物組成変動の解明
キーワード:鉱物ダスト、アイスコア、グリーンランド、走査型電子顕微鏡
極地に分布する氷河や氷床の上には,周囲の土壌や遠方の砂漠などを起源とする風送ダストが堆積し,毎年涵養域の雪の層の中に保存される.したがって,氷床上に保存されているダストをアイスコアとして取り出して分析すれば,過去に氷床上に堆積したダストの変動を明らかにでき,さらには氷床上へのダストの輸送経路や供給源となる場所の変動を明らかにできる可能性がある.しかしながら,氷床上ダストの分析はまだ限られており,特にダスト濃度が低い間氷期の変動については詳細がほとんど明らかになっていない.本研究では,微量でも分析が可能な走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いてグリーンランド氷床で掘削されたアイスコア試料中の鉱物ダストの同定,形態観察および化学成分分析を行い,過去100年間の変動を明らかにすることを目的とした.また,得られた結果を過去の環境変動のデータと比較することで,ダストの起源の変化やその要因についても考察した.
観察を行ったのは,グリーンランド氷床北西部(SIGMA-D,N77°38’, W59°07’, 2100 m a.s.l,Matoba et al. 2015)において2014年5月に掘削された長さ222.72 mアイスコアに含まれる鉱物ダストである.本研究では,そのうち深さ0 – 40.09 mの部分を用いて観察を行った.水素同位体比分析,トリチウム分析,および化学成分分析を用いて行われた年層決定の結果から,これらのサンプルは1910年から2014年までの約100年分に相当することがわかっている.また,これまでに行われたCFA(Continuous Flow Analysis)分析の結果から,SIGMA-Dアイスコアに含まれるダスト由来の化学成分は著しく低い濃度を示したが,その濃度は時間によって変動することが明らかになった.そこで,本研究では5年ごとに各層のサンプルをまとめ,1サンプにつき150粒子を無作為に選んで観察し,その時間変化を明らかにすることとした.サンプルは凍結乾燥した後にメンブレンフィルター上に捕集し,白金蒸着したものを観察した.また,エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて,鉱物ダスト表面の化学組成を分析し,形態情報と合わせてその種類を同定した.サンプルの観察は,国立極地研究所の走査型電子顕微鏡(QUANTA FEG 450)を用いて行った.
観察の結果,アイスコアサンプルにはいずれも平均1-3μmの粒径を持つ鉱物ダストが含まれていた.これは先行研究でアジアの砂漠由来であることが報告されているグリーンランド内陸域のアイスコアダストの粒径に一致することから,SIGMA-Dコアにも主に長距離輸送されたダストが供給されていると考えられる.次にEDSを用いた表面化学成分分析の結果,アイスコア中には主にSiを主成分とするケイ酸塩鉱物,特に粘土鉱物が卓越していることがわかった.しかしその組成はサンプル間で異なり,たとえば化学風化(カオリナイト)と物理風化(雲母類,緑泥石)で形成された鉱物の組成が10-15年周期で逆センスの変動を示した.このことから,アイスコア中の鉱物は異なる地質由来の複数の起源から供給されており,起源となる場所が周期的に変化している可能性が示唆された.さらに,石英と長石は1920-1945年および1990-2013年のサンプルに多く含まれていた.この2つの鉱物は粘土鉱物に比べて粒径が大きく,一般に近距離輸送の指標としても利用されている.過去の気温データとの比較の結果,1910-1945年および1990年以降はグリーンランドも含め全球で気温が高くなっていたことから,温暖な時期には氷床末端周辺の堆積物からも鉱物が供給されていた可能性があることがわかった.
観察を行ったのは,グリーンランド氷床北西部(SIGMA-D,N77°38’, W59°07’, 2100 m a.s.l,Matoba et al. 2015)において2014年5月に掘削された長さ222.72 mアイスコアに含まれる鉱物ダストである.本研究では,そのうち深さ0 – 40.09 mの部分を用いて観察を行った.水素同位体比分析,トリチウム分析,および化学成分分析を用いて行われた年層決定の結果から,これらのサンプルは1910年から2014年までの約100年分に相当することがわかっている.また,これまでに行われたCFA(Continuous Flow Analysis)分析の結果から,SIGMA-Dアイスコアに含まれるダスト由来の化学成分は著しく低い濃度を示したが,その濃度は時間によって変動することが明らかになった.そこで,本研究では5年ごとに各層のサンプルをまとめ,1サンプにつき150粒子を無作為に選んで観察し,その時間変化を明らかにすることとした.サンプルは凍結乾燥した後にメンブレンフィルター上に捕集し,白金蒸着したものを観察した.また,エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて,鉱物ダスト表面の化学組成を分析し,形態情報と合わせてその種類を同定した.サンプルの観察は,国立極地研究所の走査型電子顕微鏡(QUANTA FEG 450)を用いて行った.
観察の結果,アイスコアサンプルにはいずれも平均1-3μmの粒径を持つ鉱物ダストが含まれていた.これは先行研究でアジアの砂漠由来であることが報告されているグリーンランド内陸域のアイスコアダストの粒径に一致することから,SIGMA-Dコアにも主に長距離輸送されたダストが供給されていると考えられる.次にEDSを用いた表面化学成分分析の結果,アイスコア中には主にSiを主成分とするケイ酸塩鉱物,特に粘土鉱物が卓越していることがわかった.しかしその組成はサンプル間で異なり,たとえば化学風化(カオリナイト)と物理風化(雲母類,緑泥石)で形成された鉱物の組成が10-15年周期で逆センスの変動を示した.このことから,アイスコア中の鉱物は異なる地質由来の複数の起源から供給されており,起源となる場所が周期的に変化している可能性が示唆された.さらに,石英と長石は1920-1945年および1990-2013年のサンプルに多く含まれていた.この2つの鉱物は粘土鉱物に比べて粒径が大きく,一般に近距離輸送の指標としても利用されている.過去の気温データとの比較の結果,1910-1945年および1990年以降はグリーンランドも含め全球で気温が高くなっていたことから,温暖な時期には氷床末端周辺の堆積物からも鉱物が供給されていた可能性があることがわかった.