日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC27] 雪氷学

2019年5月29日(水) 10:45 〜 12:15 303 (3F)

コンビーナ:縫村 崇行(東京電機大学)、石川 守(北海道大学)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、永井 裕人(早稲田大学 教育学部)、座長:縫村 崇行(千葉科学大学)

11:00 〜 11:15

[ACC27-08] 高空隙多孔質氷の圧密過程に関する実験的研究:氷レゴリス層の密度進化過程への応用

矢部 みなみ1、*保井 みなみ1荒川 政彦1 (1.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻)

キーワード:高空隙多孔質氷、圧密、クリープ実験、焼結時間、氷レゴリス層

地球や火星の極域には氷床が存在する.氷床は,降雪が自重により圧密して氷化することで形成される.また,木星以遠の氷衛星表面は氷のレゴリス層で覆われてり,そのレゴリス層は衝突クレーターの形成時に氷地殻が掘削され,粉々になった氷粒子が降り積もって形成される.このレゴリス層もまた天体重力によって圧密を受けていると考えられている.一方、地球や火星より低温で重力の小さな氷衛星では,氷レゴリス層の圧密速度は遅く,表層の氷化は進まず,分厚い空隙率の高い雪層が維持される可能性が高い.この雪層は,氷衛星の地形緩和や衝突クレーターの形成効率などの表層進化に影響を与える.そこで本研究では,この天体表層の氷レゴリス層の自重による圧密過程に着目し,空隙率の高い多孔質氷を用いた低応力下での圧縮実験を行い,圧密速度と空隙率の関係を調べた.
圧縮実験の試料には,初期空隙率0.5-0.65の多孔質氷を用いた.粒径約20μmの氷粒子をシリンダーに詰め、上からピストンで押し固めることで直径20mm,高さ40mmの円筒形試料を作成した.また,氷粒子間の焼結の影響を調べるために,焼結時間を最大約200時間まで変化させた.圧縮実験はクリープ実験により行い,応力は21-42kPaと変化させた.高さ方向の変位はレーザー変位計及び接触型変位計で測定し,直径方向の変位はタイムラプスカメラで撮影した画像を解析することで測定した.温度は-9±1℃及び-11±1℃とした.
圧縮実験後,直径方向と高さ方向の歪みの関係を調べたところ,試料半径方向の歪み(dr/r)は試料高さ方向の歪み(dh/h)の-0.11倍になることがわかった.このことから,実際の圧密速度は高さ方向の歪速度の-0.78倍に補正する必要があることがわかった.そこで本研究では,試料の高さ方向の歪速度(圧縮速度:1/hdh/dt)に補正数-0.78を掛けたものを圧密速度(1/ρ/dt)として扱う.
次に,圧縮速度に対する焼結時間の影響を調べた.その結果,同じ応力でも,焼結時間が長くなるほど圧縮速度が小さくなることがわかった.ただし,焼結時間がある臨界時間を超えると焼結時間の影響はほとんど見られなくなった.この臨界時間は,試料の初期空隙率が大きいほど短くなった.本研究では,圧縮速度に対する焼結時間の影響を除くため,臨界時間以後の圧縮速度に対する空隙率,応力,温度依存性を調べた.
臨界時間以後の圧縮速度と空隙率の関係を調べた結果,一定応力下では初期空隙率に関わらず,圧縮速度と空隙率の関係は1つの指数関数則,1/hdh/dt=Bexp()(φは空隙率,BCとは定数)と表されることがわかった.定数Bは応力の増加とともに指数関数的に増加し,B=βσnσは応力,βnは定数)とさらに書き直すことができた.βnはともに応力に依存しない定数となった.Cは応力に関わらず,ほぼ一定になることがわかった.
さらに,圧縮速度と温度の関係を調べたところ,温度の上昇と伴に圧縮速度は大きくなり,アレニウスの式(β=B'exp(-Q/RT))を用いて活性化エネルギーを調べた結果,127 kJ/molとなった.この値は、先行研究で得られた氷の塑性変形に関係する活性化エネルギー(80-91 kJ/mol)より多少大きくなることがわかった[1][2]
以上の結果から,空隙率0.5以上の氷の圧密速度に対する空隙率,応力,温度の依存性を組み込んだ経験式,1/ρ/dt=-0.78B'exp(-Q/RT)σnB'=2.4×104 [(Pa)n/s],C=24,n=1.8)を得ることができた.この式を用いて,地球南極及び氷衛星表層における雪の圧密進化過程を計算した.つまり,天体の地表面上にある雪や氷レゴリス層が自重により時間と伴に密度が大きくなり,厚みが減少する過程を計算した.この際,全厚みでの初期密度は180 kg/m3,地表面での応力は100 kPaと固定した.その結果,地球の南極(厚さ10m)は100年経過すると地表面上の密度は約3倍となり,厚みは約半分となった.一方,土星の氷衛星エンセラダス(厚さ5km)の環境で計算すると,厚みが約半分になる時間は100年と地球南極とほぼ同じであるが,地表面下の密度は約2倍で,地球南極に比べて密度が全体的に低くなることがわかった.
[1] Barnes et al. (1971) Proc. R. Soc., Ser: A., 324, 127-155. [2] Durham et al. (1992) JGR 97, 20,883-20,897.