日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG37] 北極域の科学

2019年5月30日(木) 10:45 〜 12:15 303 (3F)

コンビーナ:漢那 直也(北海道大学北極域研究センター)、庭野 匡思(気象研究所)、中村 哲(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、鄭 峻介(北海道大学 北極域研究センター)、座長:鄭 俊介(北海道大学 北極域研究センター)、庭野 匡思(気象研究所)

10:45 〜 11:00

[ACG37-07] 東シベリア・バタガイ周辺における森林火災に伴う永久凍土の融解沈下と凍上量の時空間変化

*柳谷 一輝1古屋 正人2 (1.北海道大学大学院理学院、2.北海道大学大学院理学研究院)

キーワード:永久凍土、InSAR、ALOS2、Sentinel-1、森林火災、Batagay

永久凍土融解による土壌有機炭素の大気中への放出は温暖化に正のフィードバックをもたらし(Shuur et al., 2015),気候変動予測に必要な陸域炭素収支を推定するためには,従来よりも広域かつ定量的な融解量の観測が求められる.しかし,従来型の現地調査だけで北半球の約 1/4 の陸地面積を占める永久凍土を包括的に観測することは容易でない.また,光学衛星や航空写真による観測は,天候により得られるデータが限られ,地下構造である永久凍土の様態を反映するデータは得られない.この問題に対し,2010 年頃から合成開口レーダー干渉法(InSAR; Interferometric Synthetic Aperture Radar)を用いて地盤変動を観測する先行研究が始められた.ただし,それらの先行研究は現地調査との比較検証がしやすいアラスカ・カナダ・シベリアの一部の地域に限られていた(Liu et al., 2010; Short et al., 2011;Antonova et al., 2018).
本研究が対象とする東シベリアの Batagay(北緯 67 度 39 分,東経 134 度 39 分)の南東部には永久凍土融解に伴う崩落地形が存在する.当初は地盤変動が活発な地域と予想してInSAR による観測を開始したが,Batagay から北西に約 10 kmの丘陵部で 2014 年 7 月に火災が発生し,その跡地で顕著な地盤変動が生じていることを発見した.森林火災による地表面植生の損失は永久凍土の融解を促し,火災後数年~十数年にわたって継続的な融解をもたらす(Yoshikawa et al., 2003).また,近年の温暖化に伴い森林火災の頻度や規模は北極域で増加していることも踏まえると(Alexander et al., 2018; Gibson et al., 2018; Masrur et al., 2018),北極圏の森林火災跡地の地盤変動の時空間変化を解明することが重要であると考えた.
本研究では 2014年に発生した森林火災跡地の地盤変動について,L バンド SAR 衛星の ALOS2 と C バンド SAR 衛星の Sentinel-1 のデータを用いて,2014 年から 2018 年の期間で干渉画像を作成し地盤変動を検出した.経年的な変動は波長の長い ALOS2のデータにより解析し,衛星視線方向にして最大10cmの融解沈下が火災後 2-3 年以降において継続していることを明らかにした.また,2017-2018年の季節的変動については, ALOS2 と Sentinel-1 のデータを解析し結果を比較した.季節的な融解・凍上量は非火災跡地と比較して増加しており,2 つの SAR衛星の解析結果間で整合的な変動量を得た.特に時間分解能の高いSentinel−1のデータより,火災跡地における融解‐凍結‐凍結終了までの詳細な時間変化を明らかにした.InSAR によって得られた地盤変動量から,永久凍土の融解量を推定することが可能となれば,北極域における陸域炭素収支の不確実性を減少させることが期待できる.そのような物理モデルは議論の最中であり(Liu et al., 2014; Hu et al., 2018; Molan et al., 2018),本研究では Molan et al., (2018)のモデルを本研究地域で検証すると共に,丘陵部である本研究地域で想定される斜面方向の変動を考慮したモデルの発展を試みた.