日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG37] 北極域の科学

2019年5月30日(木) 10:45 〜 12:15 303 (3F)

コンビーナ:漢那 直也(北海道大学北極域研究センター)、庭野 匡思(気象研究所)、中村 哲(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、鄭 峻介(北海道大学 北極域研究センター)、座長:鄭 俊介(北海道大学 北極域研究センター)、庭野 匡思(気象研究所)

11:00 〜 11:15

[ACG37-08] 近年の気候変動に伴う凍土海岸変動ダイナミクス:西シベリア北極海カラ海の例

*Kioka A.1,2Isaev V.S.2Koshurnikov A.V.2Pogorelov A.2Amangurov R.M.2Podchasov O.2Sergeev D.O.3Buldovich S.N.2Aleksyutina D.M.4Grishakina E.A.5 (1.インスブルック大学地質学専攻、2.モスクワ大学凍土学専攻、3.ロシア科学アカデミーSergeev環境地球科学研究所、4.モスクワ大学北極域地生態研究センター、5.ロシア科学アカデミーVernadsky地球化学・分析化学研究所)

キーワード:凍土海岸、カラ海、海氷、波エネルギー

近年の北極域では、温暖化による凍土海岸の後退の加速が知られており、凍土海岸沿いの人々の暮らしやインフラにとって脅威となっている。特に、本研究対象のカラ海(西シベリア)海岸の全長は北極海最長で、全北極海海岸の25%以上を占める。しかしカラ海沿岸は、全北極海沿岸の中で最も報告例が少ないと言われている。実際には、カラ海では半世紀以上にわたり凍土岸の研究が行われてきたが、海氷と永久凍土の両方の影響を受けるカラ海沿岸が、どのように変動してきたかについて理解は依然乏しい。そこで、本研究ではまず、カラ海バイダラ湾沿岸の現地DGPS調査と衛星画像をもとに、2005〜2016年における凍土海岸線の変位量を高分解能で観測した。その結果、特に2005〜2013年の年間後退量は、ここ50年間で知られているカラ海沿岸の最大年間後退量に匹敵した。次に、観測された凍土海岸の変動を決める主要因を理解するために、土壌温度モニタリング、比抵抗イメージング、気象データ解析を行った。これらの結果、例えば、土壌温度の上昇やそれに伴う永久凍土厚の顕著な減少が確認されたが、これらは凍土岸の変位量の主要因ではないことがわかった。一方で、凍土岸の年間後退量は、海氷がない(Open water)時期に凍土岸が受けた波エネルギーと相関があることがわかった。即ち、海氷がない時期の波浪活動が、凍土海岸の侵食量やそれに伴う海洋への有機炭素フラックスに大きく左右し、凍土海岸沿いのインフラや海洋生態系に影響を及ぼすことを示唆している。なお発表者はArCS若手研究者派遣事業による助成を受けた。