日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG37] 北極域の科学

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 303 (3F)

コンビーナ:漢那 直也(北海道大学北極域研究センター)、庭野 匡思(気象研究所)、中村 哲(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、鄭 峻介(北海道大学 北極域研究センター)、座長:漢那 直也(北海道大学 北極域研究センター)

16:45 〜 17:00

[ACG37-18] グリーンランド北西部ボードインフィヨルドにおけるカービング氷河末端付近での係留系観測

*藤支 良貴1,2深町 康1,3漢那 直也3杉山 慎1,3 (1.北海道大学低温科学研究所、2.北海道大学大学院環境科学院、3.北海道大学北極域研究センター)

キーワード:グリーンランド、フィヨルド、海洋性氷河

カービング氷河末端の水中融解は、グリーンランド氷床の質量損失において重要な役割を担っている(Straneo et al., 2013)。一方で、氷床から海洋への淡水流出量が近年増加しており、海洋生態系に与える影響が懸念されている。筆者らが観測を実施する、グリーンランド北西部においても大きな氷河変動が確認されており、例えばボードイン氷河で2008年以降急激な末端位置の後退が報告されている (Sakakibara et al., 2018)。しかしながら、グリーンランドのフィヨルドにおける長期海洋観測データは限られている。特に氷河近傍での観測例は少なく、氷河末端の水中融解を定量化する上で大きな不確定要素となっている。そこで本研究では、氷河近傍の海水特性の季節変動を明らかにすることを目的として、ボードイン氷河が流入するボードインフィヨルドにおいて流速、水温、塩分の係留観測を行った。
係留系は、氷河末端から約17 km(2016年8月から2018年7月、以下BF17)、および約1 km(2017年7月から2018年7月、以下BF01)に設置した。水深はBF17において約540 m、BF01は約180 mであった。BF17の係留系は、圧力センサー(DEFI2-D50HG、JFE Advantech)1台、水温計(NWT-SN、日油技研およびSBE56、Seabird) 7台、流向流速計(INFINITY-EM、JFE Advantech)1台、CTDセンサー(SBE-37SM、Seabird)1台で構成され、流向流速計と水温塩分センサーはそれぞれ527 m、530 m深に設置した。7台の水温計は,222、246、268、318、368、418、468 m深、水圧計は220 m深に設置した。BF01の係留系は流向流速計(INFINITY-EM、JFE Advantech)1台とCTDセンサー(SBE-37SM、Seabird)1台をそれぞれ167 m,170 m深に設置した。
観測の結果、BF17の海底付近で氷河へ向かう北向きの流速が生じた際に水温が低下する傾向が見られた。また、水温と塩分の変動は一年を通してよく一致しており、水温が上昇すると塩分が低下する傾向を示した。8–10月には二週間周期の水温変動が生じており、潮汐に起因した海水交換が示唆された。BF01の海底付近では、8月上旬に北向きの流速が増加した際に急速な水温低下が見られた。この変化は、近傍の気象ステーションで測定された日平均気温が正に転じる時期と一致しており、氷河底面からの融解水流出が開始したことを示唆している。また、BF01の底層における水温と塩分の変動の相関関係はBF17とは異なり、一年を通じて水温が上昇すると塩分も上昇する傾向を示した。BF17とBF01のどちらも、水温の変動は冬から春にかけて比較的小さい。この結果は、フィヨルドが11月から6月にかけ海氷に覆われるためと考えられる。以上の結果より、夏期のフィヨルドの海水交換において潮汐が大きな役割を担っていること、また氷河末端付近の海水特性は夏期に融解水の影響を強く受けることが明らかとなった。今後、風速や気圧などの気象データと海水特性・循環の相関関係や、二つの係留地点間の相関関係を解析する予定である。

謝辞
本研究は、ArCS北極域研究推進プロジェクトの支援を受けて実施した。

参考文献
Straneo F., et al., (2013): Challenges to understanding the dynamic response of Greenland’s marine terminating glaciers to oceanic and atmospheric forcing. Amer. Meteor. Soc., 94, 1131–1144
Sakakibara D., et al. (2018) Ice front and flow speed variations of marine-terminating outlet glaciers along the coast of Prudhoe Land, northwestern Greenland. J. Glaciol., 64(244), 300–310