日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG37] 北極域の科学

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:漢那 直也(北海道大学北極域研究センター)、庭野 匡思(気象研究所)、中村 哲(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、鄭 峻介(北海道大学 北極域研究センター)

[ACG37-P03] アラスカ周辺域における夏季降水量と大気水循環の年々変動

*森野 祥平1檜山 哲哉2藤波 初木2金森 大成2植山 雅仁3 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.名古屋大学宇宙地球環境研究所、3.大阪府立大学大学院生命環境科学研究科)

キーワード:大気水循環、夏季降水量、高気圧偏差、低気圧偏差

北極域では全球平均よりも急速に温暖化が進んでおり、それにともなって北極域の大気水循環も大きく変動している。大気水循環の変動は、降水量と土壌水分量の変動を介して陸域生態系にも影響を及ぼす。Hiyama et al. (2016) は、夏の大気水循環の変動によって2005年から2008年にかけて東シベリアのレナ川中流域で湿潤化が生じたことを示し、Ohta et al. (2014) は同地域のカラマツ林が2005年から2008年にかけての湿潤化によって大規模に枯死し、群落スケールの総一次生産量が低下したことを示した。一方、アラスカ内陸部では2003年から二酸化炭素やメタンなどの温室効果気体フラックス観測が行われており、近年、夏の降水量の増加によってクロトウヒ林における群落スケールのメタン放出量が増加していることが示されている。そこで本研究では、アラスカとその周辺域における夏の降水量と大気水循環に着目した解析を行った。アラスカ内陸部のフェアバンクスにおいて、雨量計で得られた地上降水量データ及び大気再解析データ(ERA-Interim)を使用した。15年分(2003年から2017年)の地上降水量データから、夏季(6・7・8月)降水量の多い年(湿潤年)と少ない年(乾燥年)をそれぞれ4年抽出した後、湿潤年と乾燥年の大気下層(850 hPa)の高度場と風向・風速、鉛直積算水蒸気フラックスの合成図を作成し、15年間の夏の平均値(気候値)と比較した。解析の結果、アラスカ内陸部の夏季降水量の年々変動は、ベーリング海峡付近からの下層の西風とそれにともなう水蒸気フラックスの変化に起因していることがわかった。すなわち湿潤年には西からの水蒸気の流入が多く、乾燥年には少ない。これらは、アラスカ周辺域の大気下層における高気圧偏差や低気圧偏差の空間パターンと強く関わっており、湿潤年にはアラスカ西岸域の西風を強化する一方で、乾燥年には西風を弱化する大気循環場になっていることがわかった。このような低気圧偏差や高気圧偏差の空間パターンは、アラスカ周辺域における低気圧の発生数や移動経路と関係しており、それらはアラスカ周辺域における海水温に関係する可能性が示唆された。興味深いことに、アラスカ周辺域の海面水温(偏差)が高い場合には北極海上の低気圧の発生数が多く、海面水温(偏差)が低い場合には少ない傾向にあった。最後にアラスカ内陸部の夏季の850 hPa高度場は、北極域や環北極域に現れるプラネタリー波が関係していることも示唆された。