日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG39] 陸域生態系の物質循環

2019年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 301A (3F)

コンビーナ:加藤 知道(北海道大学農学研究院)、市井 和仁(千葉大学)、伊勢 武史(京都大学フィールド科学教育研究センター)、寺本 宗正(国立環境研究所)、座長:加藤 知道(北海道大学)

09:15 〜 09:30

[ACG39-02] 熱帯泥炭地のオイルパームプランテーションの廃液処理ため池における温暖化ガス発生量の現地観測

*高橋 善幸1小野寺 崇2平田 竜一1仁科 一哉2Joseph Waili3Kevin Musin3Edward Aeries3Frankie Kiew3Guan Wong3Zufaqar Sa'adi3Lulie Melling3 (1.国立環境研究所地球環境研究センター、2.国立環境研究所地域環境研究センター、3.サラワク州熱帯泥炭研究所)

キーワード:気候変動、土地利用変化、熱帯アジア、熱帯泥炭、温暖化ガス

1.はじめに
 熱帯アジアは世界的に見て、著しい土地利用変化が進行している地帯であり、温暖化ガス収支の大きな変化がおこっていると考えられる。この地域の代表的な土地利用変化として熱帯泥炭林のオイルパームプランテーションへの転用がある。この土地利用変化が温暖化ガス収支に与える影響を評価するためには、泥炭林の伐採、排水による土壌有機炭素の好気的分解の促進、窒素施肥による亜酸化窒素の放出、搾油プラントの廃液処理からのメタン発生などさまざまな要素を定量的に把握する必要がある。オイルパームプランテーションにおいて、果実に含まれる酵素により収穫直後から油脂の分解による劣化が進むため、収穫後24時間以内に処理できるように圃場に隣接して搾油施設が設置される。こうして圃場と搾油処理施設全体として連続的・定常的な物質循環システムが形成されている。搾油施設においては廃液処理において大量のメタンが発生しているが、この発生量についての実測値は非常に少ない。今回は、オイルパームプランテーションの搾油施設の廃液処理から発生する温暖化ガスの定量的把握を目的として、マレーシア・サラワク州において現地調査を行った。

2.方法
 マレーシア・サラワク州シブ郊外のオイルパームプランテーション内にある搾油施設の廃液処理用開放型ため池から発生する温暖化ガス等の定量化を目的として、多点同時サンプリングを可能とする低コストで自動制御可能なフローティングチャンバーを開発した。このチャンバーで採取されたバイオガスは、現場で水上置換法を応用して体積を量り、主要なガス組成をポータブルガスモニタ(Geotech社BIOGAS5000)により測定した。チャンバーの被覆面積、サンプリング時間、採取されたガスの体積とガス組成から各ガスのフラックスを計算した。サンプリングは乾期である2018年の6月と雨期である2019年1月に10段階あるため池のうち上流側の8つのため池で実施した。

3.結果と考察
 ため池から発生するバイオガスの主成分はCH4とCO2である。ガスの発生量は2回の観測期間のいずれにおいても4段階目のため池が卓越していた。これはこのため池のpHが中性付近であるなどメタン菌の活動に好適条件にあったことが主な原因と考えられる。酸の生成によりpHが低く酸性となっている上流から3段階目までのため池においては、CH4の含有量が20-40%となっており、これに比べて高い濃度のCO2が含まれていた。一方で5段階目以降のため池においては、今回のサンプリング時ではバイオガスの発生量自体が非常に少なかった。

4.まとめ
 メタン醗酵による有機炭素除去を目的として作られた多段階からなるため池においては、段階毎にpH、温度、含有有機炭素量、妨害成分が異なり、内部で生じている生物化学的なプロセスも大きく異なると考えられる。オイルパームプランテーションは圃場と処理施設を含めた定常的・連続的な物質循環システムを形成しており、その土地利用変化と温暖化ガス収支を考える上では、生態系からのガス収支を把握するだけでは不十分である。オイルパームプランテーションでの温暖化ガス収支を総合的に理解するために、ため池毎のバイオガス発生量とガス組成の観測と同時にpHやCODなど関連する環境要素を測定しており、同時にプランテーションのシステム全体の物質フローについての把握するためのインタビューをすすめている。
 今回の発表では雨期(2019年1月)に行われた調査の結果についても紹介する予定である。