11:15 〜 11:30
[ACG40-08] マングローブ二次林堆積物における有機炭素の残留と集積に対する地形的要因の効果
キーワード:炭素隔離機能、マングローブ、植林
マングローブは熱帯・亜熱帯の穏やかな堆積性の汽水域に成立する塩性広葉樹林である。卓越した炭素隔離機能を持ち、膨大な量の炭素を非生物態有機炭素として土壌中に保持していることから、マングローブの消長は温暖化ガスの動態と気候変動を考える上で重要な意味を持っている。年間1ヘクタールあたり1トンを超えると言われているその炭素隔離能力もさることながら、近年注目を集めているのは、マングローブが消失することによって大気中に放出されることになる二酸化炭素(CO2)の量である。実際、マングローブは人類による薪炭利用や干拓・造成によって、全世界にもともと存在した生態系面積の優に半分以上が過去数百年間に失われており、今なお年間最大2パーセントのマングローブが失われつつあるという試算がある。マングローブ土壌中には表層部1メートルだけで1ヘクタールあたり平均700トンを超える有機炭素が貯蔵されている。仮に年間2パーセントのマングローブの消失後に表層土壌1メートル分の炭素がすべて微生物分解を受けて酸化されると仮定すると、それによるCO2放出量は世界全体で最大年間60万トンにも及ぶという計算になる。しかしながら、マングローブが伐採されて養殖池や農地に転換された場合、実際に土壌に貯留されている炭素のどのくらいがCO2として放出されるのか、またどのくらいの速度で放出されるのかは実はよく分かっていない。土壌有機炭素の一部は転換後も長期にわたって残留する可能性もあり、または潮汐や出水の作用で海洋に流出する場合もある。それぞれのプロセスの相対的重要性は転換後の土地利用形態や水文学的条件に依存していると考えられる。
私共はマングローブ消失後の土壌有機炭素の動態と、マングローブが再生する際の土壌炭素ストックの回復過程とを明らかにするために、フィリピンのパナイ島沿岸部において国際共同研究プロジェクトを開始している。パナイ島沿岸部では原生的なマングローブはほぼ完全に失われているが、伐採後に自然に回復した二次林、人為的に植林された再生マングローブ、もともと前浜であったところに新規に植林されたマングローブなど、多種多様な二次林が分布しているほか、放置されたまま塩性湿地に変わっている養殖池跡、マングローブから流出したと想定される土壌が沖合海底に堆積している場所等も存在し、比較研究のサイトとしてたいへん興味深い。本研究では最初の研究結果として、自然に回復した河口域デルタ型のマングローブと、閉鎖的な内湾に植林されたマングローブから得た土壌コア試料の貯留有機炭素の分析結果について紹介する。
今回調査したマングローブ二次林では、表層土壌1メートルの有機炭素貯留量は1ヘクタールあたり40トンから420トンと評価され、自然林マングローブの世界平均に比べるとかなり低いことが分かった。放射炭素年代測定を適用したところ、河口域下部の二次林では表層1メートルの土壌中有機炭素はほぼ現代のものであった。このことは、もともとの原生林にあった土壌有機炭素は伐採後にほぼ流失したか、分解されたことを示唆している。それに対して河口域上部の二次林では土壌有機炭素の年代は400年から1200年と評価されたことから、この場所では原生林の土壌有機炭素がかなり残留しているものと推定された。土壌粒子の単位表面積あたりの有機炭素負荷量は場所によって大きく異なり、物理条件が安定した場所ほど高くなる傾向があった。このことはマングローブのリターに由来するデトリタスが物理的に安定している土壌ほど高濃度に滞留しやすいことによると考えられる。単位粒子表面積あたりの有機炭素負荷量と炭素・窒素安定同位体比との関係から、マングローブ由来の有機物の炭素・窒素同位体比はそれぞれ-28‰と+0.5‰と評価された。海洋性有機物に由来すると思われるもう一方の端成分はそれぞれ-25‰と+3‰であり、土壌深度が深いほど存在比が減少する傾向が認められた。
このように、マングローブ二次林土壌における古くからの有機炭素の残留状況と新たな有機炭素の集積状況はともに、生息地の立地条件、特に水流動場の特性に強く規定されていることが示唆された。
私共はマングローブ消失後の土壌有機炭素の動態と、マングローブが再生する際の土壌炭素ストックの回復過程とを明らかにするために、フィリピンのパナイ島沿岸部において国際共同研究プロジェクトを開始している。パナイ島沿岸部では原生的なマングローブはほぼ完全に失われているが、伐採後に自然に回復した二次林、人為的に植林された再生マングローブ、もともと前浜であったところに新規に植林されたマングローブなど、多種多様な二次林が分布しているほか、放置されたまま塩性湿地に変わっている養殖池跡、マングローブから流出したと想定される土壌が沖合海底に堆積している場所等も存在し、比較研究のサイトとしてたいへん興味深い。本研究では最初の研究結果として、自然に回復した河口域デルタ型のマングローブと、閉鎖的な内湾に植林されたマングローブから得た土壌コア試料の貯留有機炭素の分析結果について紹介する。
今回調査したマングローブ二次林では、表層土壌1メートルの有機炭素貯留量は1ヘクタールあたり40トンから420トンと評価され、自然林マングローブの世界平均に比べるとかなり低いことが分かった。放射炭素年代測定を適用したところ、河口域下部の二次林では表層1メートルの土壌中有機炭素はほぼ現代のものであった。このことは、もともとの原生林にあった土壌有機炭素は伐採後にほぼ流失したか、分解されたことを示唆している。それに対して河口域上部の二次林では土壌有機炭素の年代は400年から1200年と評価されたことから、この場所では原生林の土壌有機炭素がかなり残留しているものと推定された。土壌粒子の単位表面積あたりの有機炭素負荷量は場所によって大きく異なり、物理条件が安定した場所ほど高くなる傾向があった。このことはマングローブのリターに由来するデトリタスが物理的に安定している土壌ほど高濃度に滞留しやすいことによると考えられる。単位粒子表面積あたりの有機炭素負荷量と炭素・窒素安定同位体比との関係から、マングローブ由来の有機物の炭素・窒素同位体比はそれぞれ-28‰と+0.5‰と評価された。海洋性有機物に由来すると思われるもう一方の端成分はそれぞれ-25‰と+3‰であり、土壌深度が深いほど存在比が減少する傾向が認められた。
このように、マングローブ二次林土壌における古くからの有機炭素の残留状況と新たな有機炭素の集積状況はともに、生息地の立地条件、特に水流動場の特性に強く規定されていることが示唆された。