日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 海洋表層-大気間の生物地球化学

2019年5月29日(水) 10:45 〜 12:15 102 (1F)

コンビーナ:宮崎 雄三(北海道大学低温科学研究所)、西岡 純(北海道大学低温科学研究所)、鈴木 光次(北海道大学)、岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)、座長:宮崎 雄三(北海道大学 低温科学研究所)、西岡 純(北海道大学 低温科学研究所)

11:45 〜 12:00

[ACG42-05] 北太平洋亜熱帯域における海洋大気エアロゾル中の水溶性有機態窒素の起源

*土橋 司1,2宮崎 雄三1立花 英里1岩本 洋子3高橋 一生4堀井 幸子4Wong Shu-Kuan5浜崎 恒二5 (1.北海道大学低温科学研究所、2.北海道大学大学院環境科学院、3.広島大学大学院生物圏科学研究科、4.東京大学大学院農学生命科学研究科、5.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:有機態窒素、海洋大気エアロゾル、大気―海洋間地球化学、窒素固定

海洋表層から放出される大気エアロゾルは太陽光の反射や吸収、雲の生成に深く関わることで大気の放射収支に影響を与えるなど、気候変動の重要な支配要因である。海洋表層から放出されるエアロゾル中の水溶性有機態窒素(WSON)は粒子の水溶性特性、酸性度、光吸収特性などの物理化学的性質に影響を与えると考えられるが、海洋大気エアロゾル中のWSONの起源に関する研究はほとんどない。本研究では、観測データが少ない北太平洋亜熱帯域での海洋大気エアロゾル中のWSONと関連する有機物組成の空間分布、および海洋表層の窒素固定生物を中心とする微生物活動との関係から、WSONの起源を明らかにすることを目的とした。
2017年8–10月に北太平洋亜熱帯域において学術研究船白鳳丸(KH-17-4航海)上で主に23ºN上の東西方向に粒径別エアロゾルを採取した。水溶性有機炭素(WSOC)とWSTNの測定は全窒素測定ユニット付き全有機炭素計を用い、無機態窒素(IN)の測定はイオンクロマトグラフを用い、WSON濃度はWSTNとINの濃度差により導出した。安定炭素同位体比(δ13C)は元素分析-同位体比質量分析計(EA-IR/MS)を用いて測定した。23ºNの航路上で得られたサブミクロンWSON濃度は、160ºW(ハワイ付近)を境に東側海域の平均濃度(5.9±6.0 ngN m-3)が西側のそれ(2.2±2.0 ngN m-3)より約2–3倍有意に高いなど、特徴的な経度分布が見られた。特に東側海域では水溶性全窒素(WSTN)に占めるWSONの質量割合は平均14.1%、最大約40%を占めており、海域によってはWSONの存在量の重要性が明らかになった。後方流跡線解析およびクロロフィルa濃度、エアロゾルの起源を示すδ13Cの測定結果から、この海域でのWSONは大部分が海洋表層微生物に由来することが示唆された。エアロゾルの一次・二次生成指標(Na+など)との相関から、観測されたWSONの多くは海洋から直接粒子として放出される一次生成ではなく、気体からの二次生成物であることが示唆された。さらに、粒径ごとのWSONと海洋表層での窒素固定速度が有意な相関を示したことから、WSONの生成プロセスとして、本海域での窒素固定生物(シアノバクテリアなど)によって生成された反応性窒素が、海洋表層から気体として放出され大気中でWSONエアロゾルが生成されるプロセスが初めて示唆された。