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[ACG43-01] チャオプラヤ川上流域において温暖化と植林が流出と蒸発散に及ぼす影響
キーワード:森林増加、河川流出、蒸発散、チャオプラヤ川流域
タイ国チャオプラヤ川では、上流の山岳地帯で森林伐採が進んでおり、最上流部のNan川支流域では低水時の流量に増大傾向が観測され、森林伐採との関係が指摘されている(Tebakari et al., 2018)。さらに、地球温暖化によって河川流量が雨季に大きく増大すると予測されており(Kotsuki et al., 2014)、毎年、雨季後半に繰り返されている洪水の被害が増大すると懸念されている。植林には年間流出量を減少させ、ピークを低減させる効果があることから、植林が温暖化時の適応策の一つとして挙げられているが、森林増加は蒸発散を増加させる効果もあり、乾季の水資源の枯渇が増進される懸念もある。
そこで本研究では、植生を陽に扱っている陸面水文過程モデルMATSIRO(Takata et al., 2003; Nitta et al., 2014)を用いたオフライン実験を行い、温暖化した気候における森林増加がチャオプラヤ川上流域の河川流量と蒸発散量に与える影響を調べた。気象データは20世紀末(1981-2004年, Kotsuki et al., 2013)と 温暖化時の21世紀(2040−2059年と2080-2099年、Watanabe et al., 2014)で、2つの温暖化シナリオによる3つ気候モデルの予測結果を用い、水平解像度は5分(約10km)で、次の3つの実験を行った。一つ目は2000年の植生分布を境界条件として与えたもの(コントロール実験、CTL)、二つ目は現在より20%耕地面積が少なかった1970年の植生分布を与えたもの(AFR20実験)、三つめは国土の大部分が自然植生に覆われていた1950年の植生分布を与えたもの(AFR100で)である。
温暖化により年間の降水量、流出量、蒸発散量はいずれも増加し、降水量増加の約80%が流出量の増加に、残り約20%が蒸発散量の増加になった。森林増加による効果は、温暖化による年流出量の増加に対してAFR20で3〜5%、AFR100でも21世紀半ばで10〜15%の低減率に留まり、Chacuttrikul et al. (2018) と同様に、温暖化の進行に伴ってその比率は小さくなった。但し、植林に伴う土質変化を単純化して考慮した実験で、流出低減効果は土質変化により増大することが示唆された。また、森林増加による年間流出量の低減は、年間蒸発散量の増加表裏の関係にある。両者の変化を季節別に見ると、雨季には流出量の増加は降水量増加の約75%を占めるが、蒸発散量の増加は約10%で、残り約15%は乾季の蒸発散量増加になる。その結果、森林増加による流出量の低減は雨季に顕著で、蒸発散量の増大は乾季に顕著だった。従って、水管理の諸問題への適応策として植林を検討する際には、森林増加が流出を減少させる効果と蒸発散を増大させる効果の両方に注意を払うことが必要である。
謝辞:本研究は科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)による地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)と環境省環境研究総合推進費(S-14-5)の支援を受けて実施している。
References
Chacuttrikul et al., Hydrol. Res. Lett., 12(2), 7-13, 2018.
Kotsuki, S., et al., Hydrol. Res. Lett., 7, 7984, 2013.
Nitta, T., et al., J. Clim., 27(9), pp3318-3330, 2014.
Takata, K., et al., Global and Planetary Change, 38, 209-222, 2003.
Tebakari et al., 水文水資源学会誌, 31(1), 17-24.
Watanabe, S., et al., Hydrol. Res. Lett., 8, 33, 2014.
そこで本研究では、植生を陽に扱っている陸面水文過程モデルMATSIRO(Takata et al., 2003; Nitta et al., 2014)を用いたオフライン実験を行い、温暖化した気候における森林増加がチャオプラヤ川上流域の河川流量と蒸発散量に与える影響を調べた。気象データは20世紀末(1981-2004年, Kotsuki et al., 2013)と 温暖化時の21世紀(2040−2059年と2080-2099年、Watanabe et al., 2014)で、2つの温暖化シナリオによる3つ気候モデルの予測結果を用い、水平解像度は5分(約10km)で、次の3つの実験を行った。一つ目は2000年の植生分布を境界条件として与えたもの(コントロール実験、CTL)、二つ目は現在より20%耕地面積が少なかった1970年の植生分布を与えたもの(AFR20実験)、三つめは国土の大部分が自然植生に覆われていた1950年の植生分布を与えたもの(AFR100で)である。
温暖化により年間の降水量、流出量、蒸発散量はいずれも増加し、降水量増加の約80%が流出量の増加に、残り約20%が蒸発散量の増加になった。森林増加による効果は、温暖化による年流出量の増加に対してAFR20で3〜5%、AFR100でも21世紀半ばで10〜15%の低減率に留まり、Chacuttrikul et al. (2018) と同様に、温暖化の進行に伴ってその比率は小さくなった。但し、植林に伴う土質変化を単純化して考慮した実験で、流出低減効果は土質変化により増大することが示唆された。また、森林増加による年間流出量の低減は、年間蒸発散量の増加表裏の関係にある。両者の変化を季節別に見ると、雨季には流出量の増加は降水量増加の約75%を占めるが、蒸発散量の増加は約10%で、残り約15%は乾季の蒸発散量増加になる。その結果、森林増加による流出量の低減は雨季に顕著で、蒸発散量の増大は乾季に顕著だった。従って、水管理の諸問題への適応策として植林を検討する際には、森林増加が流出を減少させる効果と蒸発散を増大させる効果の両方に注意を払うことが必要である。
謝辞:本研究は科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)による地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)と環境省環境研究総合推進費(S-14-5)の支援を受けて実施している。
References
Chacuttrikul et al., Hydrol. Res. Lett., 12(2), 7-13, 2018.
Kotsuki, S., et al., Hydrol. Res. Lett., 7, 7984, 2013.
Nitta, T., et al., J. Clim., 27(9), pp3318-3330, 2014.
Takata, K., et al., Global and Planetary Change, 38, 209-222, 2003.
Tebakari et al., 水文水資源学会誌, 31(1), 17-24.
Watanabe, S., et al., Hydrol. Res. Lett., 8, 33, 2014.