日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG44] 沿岸海洋生態系─2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 102 (1F)

コンビーナ:梅澤 有(東京農工大学)、宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、渡邉 敦(笹川平和財団 海洋政策研究所)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)、座長:梅澤 有(東京農工大学)、宮島 利宏(東京大学)、渡邉 敦(東京工業大学)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)

15:45 〜 16:00

[ACG44-07] サンゴ礁長期モニタリングにおける挑戦:新しいサンプリング手法の効果に対する統計的アプローチ

*藤井 巌1,2セルグラス ジェニファー3,2ビンセント アマンダ2 (1.公益財団法人笹川平和財団海洋政策研究所、2.ブリティッシュコロンビア大学海洋水産研究院プロジェクト・シーホース、3.スタンフォード大学ホプキンス臨海実験所)

キーワード:サンゴ礁、海洋保護区、長期モニタリング、海洋保全

効果的なサンゴ礁保全のためには、海洋保護区がサンゴに与え得る影響を長期にわたりモニタリングする必要がある。このような長期モニタリングでは、期間を通して同一のサンプリング方法を採用することが理想である。しかし、当初用いられた方法が最適でなく、あるいはより適したサンプリング技術・器材が開発され、方法の変更を迫られた場合、どのような対応をとればよいだろうか。本研究ではライン・インターセプト・トランセクト法 (LIT) およびフォト・コドラート法 (PQ) により推計されたサンゴの被度データを比較し、異なる方法から得られたデータを一つの時系列データとして扱うことが可能かを検証した。

本研究では18年にわたるデータのうち、LIT・PQ両方が実施された3年分を用いた。調査は1998年から2016年の間に乾期(3 ~ 4月)と雨期(9 ~ 10月)の年2回、計8か所の海洋保護区で実施され、モニタリング前半ではLIT(1998 ~ 2010年)が、後半ではPQ(2008 ~ 2016年)が使用された。また、サンプリング方法変更時には、移行期間として3年(2008 ~ 2010年)にわたり両方法が用いられた。LITでは各海洋保護区に20 mトランセクトが計2本、固定トランセクトとして設置された。しかし、調査海域ではトランセクトの完全な固定が困難であったため、方法がPQに切り替えられた。PQでは各海洋保護区に23 mトランセクトが計10本、無作為に設置された。なお、調査は5 m以浅の海域で行われた。LITは水深5 ~ 10 mの海域でも実施されたが、本研究では浅海域のデータのみを使用した。

サンプリング方法移行期間のデータを用いた比較では、LITはPQと比較して高い平均値を示した(LIT平均値40.5 %、PQ平均値31.1 %)。しかし、20 mのLITデータを1 mごとに区切り、そのサンプル数をn = 2から40に増加させることにより、LIT・PQ両データの平均値に有意の差が見られなくなった(サンプル数増加後のLIT平均値39.0 %)。一方、移行期間中のサンゴの被度の増減は、PQでは有意の結果が示されるのに対して(5.8%/年減少)、LITでは有意の結果が示されなかった(1.8 %/年増加)。この違いはPQデータのサンプル数が多いこと、また、データが広範囲からサンプリングされたことによるものと考えられる。被度の増減に関しては、サンプル数増加後もLITデータに大きな変化が見られなかった。しかし、異なる水深のデータに大きな差が見られない場合、5 m 以深のLITデータを加える等によって、LITとPQの類似性をさらに高められると考えられる。これらの結果から、異なる方法から得られたデータを使用する際、サンプル数および調査範囲の差に留意する必要があることが確認された。また、データの類似性を高めるうえで、再サンプリングが有用であることが示唆された。本研究における結果は、長期モニタリングデータの質を改善し得るとともに、海洋保護区による効果的なサンゴ礁保全に寄与するだろう。