09:00 〜 09:15
[ACG45-01] 「しきさい」の250m解像度・多波長を活用した沿岸域での新たな情報抽出に向けて
★招待講演
キーワード:GCOM-C、しきさい、SGLI、海色、リモートセンシング
一般に沿岸域は外洋より複雑な光学特性を持つため、衛星データからクロロフィルa濃度のような生物量を推定するためには従来以上に水中の光学特性(吸収・散乱とその波長特性)の地域性を考慮する必要がある。しかし逆に、この光学特性を抽出できれば新たな環境情報として活用できる可能性もある。2017年12月に打ち上げられた気候変動観測ミッションGCOM-C「しきさい」搭載の多波長光学放射計(SGLI)は、可視~近赤外領域に250m空間解像度の観測チャンネルを持っているため、250mの解像度による従来よりも沿岸に近い海域における利用が期待される。SGLIの観測波長(380, 412, 443, 490, 530, 565, 672, 867nm)には、近紫外域(380nm)と比較的長波長域に吸収とベースラインのバンドとして利用可能な530nmと565nmのペアを持つ(比較的高濃度のクロロフィルa濃度でも吸収の影響が飽和しないため、高濃度域における推定に優位性がある)という特徴がある。
2018年8月1日、5日、13日の瀬戸内海の中央部において、Pstar-4(Ota et al., 2010)を用いて大気補正した565nmのGCOM-Cの海水射出反射率(r_w)が530nmのr_wに比べて高くなっているパッチ状の海域が確認されていた。試しに、NOMADデータ(Werdell, and Bailey, 2005)を用いた平均的なa_phやa_dgスペクトルを用いた水中光学特性モデルを用いて複数波長の水中射出反射率からa_ph/(a_ph+a_dg)比を推定すると(Lyon and Hoge, 2006; 村上, 2018)、上記のスペクトルの特徴に対応してa_phが周囲より相対的に大きい領域として推定された(Fig. 1)。植物プランクトンの吸収係数(a_ph)の530nmと565nmの波長間差(a_ph(530) - a_ph(565))は有色溶存有機物とデトリタスの吸収係数(a_dg)の波長間差(a_dg(530) - a_dg(565))に比べて一般に大きいため、それがr_wの波長間差を作っていた可能性がある。ただし、植物プランクトンの種類等によってa_phの波長特性が変わるため、それらが原因である可能性もある。残念ながら現場の光学観測が無いため確認できないが、この期間の瀬戸内海では赤潮が発生していたことが報告されており(水産庁、2018)、それと対応している可能性がある。
沿岸での衛星海水射出反射率推定における課題として残っているエアロゾルによる吸収の影響などを改善し、より効果的な沿岸情報として利用できるようにしたい。
参考文献
Ota, Y., A. Higurashi, T. Nakajima, and T. Yokota, 2010: Matrix formulations of radiative transfer including the polarization effect in a coupled atmosphere-ocean system, J. Quantitative Spectroscopy and Radiative Transfer, 111, 878-894.
Werdell, P. J., and S.W. Bailey, 2005: An improved bio-optical data set for ocean color algorithm development and satellite data product validation, Remote Sens. Environment, 98, 122-140.
Lyon, P., and F. Hoge, 2006: The Linear Matrix Inversion Algorithm, Chap. 7 of IOCCG Report Number 5, Remote Sensing of Inherent Optical Properties: Fundamentals, Tests of Algorithms, and Applications, Ed. by Z. Lee.
村上浩、「第10 章 海色」、気象研究ノート第238号、静止気象衛星ひまわり8号・9号とその利用、岡本幸三、別所康太郎、吉崎徳人、村田英彦編、2019.
水産庁瀬戸内海漁業調整事務所、「瀬戸内海の赤潮」、平成30年8月
2018年8月1日、5日、13日の瀬戸内海の中央部において、Pstar-4(Ota et al., 2010)を用いて大気補正した565nmのGCOM-Cの海水射出反射率(r_w)が530nmのr_wに比べて高くなっているパッチ状の海域が確認されていた。試しに、NOMADデータ(Werdell, and Bailey, 2005)を用いた平均的なa_phやa_dgスペクトルを用いた水中光学特性モデルを用いて複数波長の水中射出反射率からa_ph/(a_ph+a_dg)比を推定すると(Lyon and Hoge, 2006; 村上, 2018)、上記のスペクトルの特徴に対応してa_phが周囲より相対的に大きい領域として推定された(Fig. 1)。植物プランクトンの吸収係数(a_ph)の530nmと565nmの波長間差(a_ph(530) - a_ph(565))は有色溶存有機物とデトリタスの吸収係数(a_dg)の波長間差(a_dg(530) - a_dg(565))に比べて一般に大きいため、それがr_wの波長間差を作っていた可能性がある。ただし、植物プランクトンの種類等によってa_phの波長特性が変わるため、それらが原因である可能性もある。残念ながら現場の光学観測が無いため確認できないが、この期間の瀬戸内海では赤潮が発生していたことが報告されており(水産庁、2018)、それと対応している可能性がある。
沿岸での衛星海水射出反射率推定における課題として残っているエアロゾルによる吸収の影響などを改善し、より効果的な沿岸情報として利用できるようにしたい。
参考文献
Ota, Y., A. Higurashi, T. Nakajima, and T. Yokota, 2010: Matrix formulations of radiative transfer including the polarization effect in a coupled atmosphere-ocean system, J. Quantitative Spectroscopy and Radiative Transfer, 111, 878-894.
Werdell, P. J., and S.W. Bailey, 2005: An improved bio-optical data set for ocean color algorithm development and satellite data product validation, Remote Sens. Environment, 98, 122-140.
Lyon, P., and F. Hoge, 2006: The Linear Matrix Inversion Algorithm, Chap. 7 of IOCCG Report Number 5, Remote Sensing of Inherent Optical Properties: Fundamentals, Tests of Algorithms, and Applications, Ed. by Z. Lee.
村上浩、「第10 章 海色」、気象研究ノート第238号、静止気象衛星ひまわり8号・9号とその利用、岡本幸三、別所康太郎、吉崎徳人、村田英彦編、2019.
水産庁瀬戸内海漁業調整事務所、「瀬戸内海の赤潮」、平成30年8月