日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-GE 地質環境・土壌環境

[A-GE31] New Roles of Soil Science for Extraterrestrials

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 202 (2F)

コンビーナ:登尾 浩助(Meiji University)、溝口 勝(東京大学大学院農学生命科学研究科)、座長:佐藤 直人

16:30 〜 16:45

[AGE31-04] 低重力下における粘度の変化が浸潤速度に及ぼす影響

*野川 健人1佐藤 直人2丸尾 裕一1長沼 菜摘1登尾 浩助2 (1.明治大学大学院農学研究科、2.明治大学農学部)

キーワード:粘度、低重力、浸潤速度

宇宙船内や火星・月表面上で作物栽培を行うためには多孔質体中の水分挙動を明らかにすることが重要である。しかしJonesら(1999)の実験により微小重力(μG)下における多孔質体中の水分移動速度は1G下と比べて低下することが明らかになった。また丸尾(2018)の実験によりμG下における毛管浸潤速度は1G下と比べて低下することが明らかになった。μG下における多孔質体中の浸潤は毛管力に依存すると考えられるため,毛管浸潤速度の低下がμG下における多孔質体中の浸潤速度低下を引き起こした可能性がある。μG下における毛管浸潤速度の低下は表面張力の低下,接触角の増加,粘度の増加のいずれかもしくは複数が原因でもたらされたと考えられる。長沼ら(2019)の実験によりμG下における水の表面張力は1G下と比べて変化しないことが明らかになった。また長沼ら(2018)の実験によりμG下における微小液滴の接触角は1G下と比べて変化しないことが明らかになった。しかし水の粘度の重力依存性を明らかにした先行研究はほとんど存在しない。そのため本実験では水の粘度の重力依存性を明らかにし,粘度の変化が浸潤速度に及ぼす影響を考察する。本実験では航空機としてMU-300(Diamond Air Service Inc., Nagoya, Japan)を使用しパラボリックフライトによる低重力実験を2日間行った。重力条件はµG(1日目: 3回, 2日目: 3回),1/6G(1日目: 3回, 2日目: 6回),1/3G(1日目: 5回, 2日目: 3回)の3条件であり、それぞれの低重力持続時間は20〜30秒であった。重力の変化は機内に設置された加速度計より取得した。実験に使った内径64 mm,高さ41 mmのアクリルカラムには,カラム内壁の上部14 mmに撥水加工を行い,加工部と未加工部の境目が水面となるよう水位を調節した。カラムに充填する試料は脱気水を使用した。粘度の測定には粘度計(音叉型振動式粘度計SV-10, A&D社)を使用した。また粘度計に内蔵された温度センサーにより水温を測定した。粘度と温度の測定間隔は1日目が2秒,2日目が1秒だった。水面の様子をビデオカメラ(GoPro Hero4, GoPro Inc.)で撮影した。実験の結果より0Gから1Gの範囲で粘度と重力の間に負の相関が見られた(Fig. 1)。また1Gから2Gの範囲では振動により測定値がばらつき,信頼できるデータが得られなかった。μG下において表面張力と接触角は変化しないことが分かっているため、毛管浸潤速度の低下は粘度の増加のみによってもたらされたと考えられる。このことからμG下における粘度の増加が毛管浸潤速度の低下にもたらす影響を考察する。丸尾(2018)は1G下と比較したμG下における毛管浸潤速度の変化率を遅延係数αで定義し,式(1)で表した(Fig. 2)。式(1)で粘度以外の値が1GとμGで変化しないと仮定すると式(2)が成り立つと考えられる(Fig. 3)。そこで丸尾(2018)の毛管浸潤実験における1/α2と本実験におけるημG1Gを比較する。1/α2は毛管径0.8 mmで2.49,2.3 mmで2.78,5.5 mmで3.19,ημG1Gは1日目が2.66,2日目が2.70であり1/α2ημG1Gはほとんど同じ値となった。このことからμG下における毛管浸潤速度の低下は粘度の増加によってもたらされたと考えられる。