日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-GE 地質環境・土壌環境

[A-GE31] New Roles of Soil Science for Extraterrestrials

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:登尾 浩助(Meiji University)、溝口 勝(東京大学大学院農学生命科学研究科)

[AGE31-P02] 近・中赤外線による土壌炭素の特徴抽出

*岩崎 正義1森 也寸志1 (1.岡山大学 大学院 環境生命科学研究科)

キーワード:土壌有機物、比重分画、フーリエ変換赤外分光光度計

土壌中の有機物量を知る主な方法としては燃焼法によるTC(Total Carbon)の測定が挙げられる.しかし,これは総量の測定であり,測定した炭素の内訳はわからない.そこでFTIR(Fourier transform infrared spectrometer)を用いた赤外光による分析によって詳細な有機物分析を試みた.

 計測の際には,ピークで波形が飽和しないように,光学的な希釈剤を用いる.赤外線吸収のほとんど無いKBrを使用することが多いが高価である。波形特性を調べるとKClが代替品として使用できることがわかり,これを希釈剤として利用した。まず標準物質として,濃度を変えたセルロースをKClと混合し,検量線を作成した。次いで,実圃場試料として,農地保全を行っている沖縄県石垣島サトウキビ畑の土壌について,比重1.0で分画を行い,耕起区マクロポア有・無,不耕起区マクロポア有・無の4処理区で,深さ0,10,20cmの計12個の土壌試料を測定した。さらに,有機物を含まないマサ土に対してセルロースとフミンを混合させた試料を比重1.8の重液で分画し,どこまで有機物を個別に抽出できるか実験した.重液にはポリタングステン酸ナトリウム溶液を使用した.また,マサ土にセルロースとフミンを混合させた試料に関しては,(マサ土+セルロース1,2,3%),(マサ土+フミン1,2,3%),(マサ土+フミン3%+セルロース1,2,3%)の計9つの試料を測定した.

 その結果,セルロース量はFTIR吸収波形と線形比例し,計測が可能であるとわかった.実圃場の試料をセルロースのピーク波長で代表して分析すると,その量は全ての処理区で表層に最も多く,表層より下では,耕起区は不耕起区よりも多かった。これは比較的新しい植物の残渣の量を指していると考えられ,耕起区の方がこの割合が高いと推測できる。また,全炭素分析の結果と比べた時に,不耕起区ではそれ以外の有機物,例えば難分解性の有機物が多い可能性があると推測された。同じ全炭素量であっても耕起区と不耕起区ではその内容に違いがあり,耕起区ではセルロースを中心とする有機物が,不耕起区ではそれ以外の成分を中心とする有機物が多い可能性があった。これは一般的な耕起・不耕起の知見と一致する。さらに,重液を用いた実験では,(マサ土+セルロース)と(マサ土+フミン)で独立に混合した場合,両方とも線形比例である検量線を得て,それぞれの量の大小の比較が可能であった.しかし,(マサ土+フミン+セルロース)と混合した場合は,十分な精度が得られなかった.

 これまで実際の土壌で有機物の特性を調べることができなかったが,土粒子と分離し,さらに比重で分画し,希釈剤にKClを用いることで,安価で効果的に有機物の質を調べられる可能性を得た。現状では抽出物の正確な定量は出来ないものの,量の大小の比較は可能であった。また,重液を用いた比重分画実験では,土と単一の有機物を混合させた物ならば効果的な分離と定量が行えたが,混合させる有機物が複数になると途端に測定の精度が下がってしまうため,この事への対処が今後の課題となった.