日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW25] 都市域の水環境と地質

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:林 武司(秋田大学教育文化学部)

[AHW25-P02] 流域水資源管理に求められる地下水モニタリング-首都圏既設観測井網を活用した地下水開発の影響評価-

*宮越 昭暢1林 武司2八戸 昭一3濱元 栄起3 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門、2.秋田大学教育文化学部、3.埼玉県環境科学国際センター)

キーワード:流域水資源管理、持続可能な地下水開発地盤沈下・地下水位観測井網,首都圏、地下水・地下温度モニタリング、地盤沈下・地下水位観測井網、首都圏

筆者らは,世界有数の大都市圏である首都圏を対象として,都市域における地下水開発や揚水規制等により変化する地下水流動や都市特有の熱環境や地球温暖化に伴う気候変動が地下水・地下熱環境に及ぼす影響等を把握するため,地下温度観測を継続的に実施している。これらの調査結果により,首都圏の地下水・地下熱環境が長期かつ広域・大深度に複雑な変化を示すことが明らかとなってきた。例えば,関東平野南部の事例(宮越ほか,2017)では,東京都および埼玉県内に分布する既存の地盤沈下・地下水位観測井にて過去10年間に測定された地下温度プロファイルの比較検討から,地下浅部の温度が継続的に上昇しており,地下温度上昇が地下水涵養域に相当する台地において,より深部まで及んでいることを報告した。また,関東平野北部の事例(宮越ほか,2016)では,群馬県南部および栃木県南部の既設観測井で測定した現在の地下温度プロファイルと,既往の1960~70年代の地下水温のデータを比較検討することにより,地下水開発と揚水規制による地下水流動の変化に起因して深度100~300mの地下温度が過去40~50年の長期にわたって変化していることを報告した。これらの結果は地下水流動の変化が,地下温度分布ならびに地下温度変化のアノマリーとして表れることを示している。
 これら先行研究は,数年~十数年間隔で断続的に実施された繰返し測定結果の比較検討から求めた地下温度変化に基づくものである。一方で,地下水開発は時代ごとの社会的な要請に応じて変化するものであり,近年は,水資源としての地下水需要が再び高まっている。地下水に対する社会的需要に対応して持続可能な地下水資源管理を行うためには,流域スケールでの水資源管理に加え,地域スケールでの地下水環境の変化を即応的に捉えることが必要となる。地下水環境の変化には,都市化に伴う地上・地下構造物からの排熱や気候変動による地下熱環境の変化も含まれる。筆者らは,2007年(埼玉県内4地点)および2012・2013年(東京都内6地点,宮越ほか,2017)から地下温度の高精度モニタリングを実施し,地下温度の連続的かつ微細な変化と,深度による変化傾向の差異を調査してきた。その結果,地下水流動の涵養域にあたる埼玉県南西部および東京都西部の台地部と下流側に位置する埼玉県南東部や東京都東部の低地部では,温度上昇率の値や季節的な変動傾向に差異が認められた。
 また,地下水利用の多様化に伴って,地下水の揚水時期や揚水量だけでなく地下水開発深度も変化することが想定される。このような地下水開発の変化に対応するためには,既設観測井網を活用し,より多くの観測データを蓄積することが有効である。例えば地下温度では,自記記録計を用いた多深度での地下温度モニタリングに加えて,光ファイバー温度計を用いた温度プロファイルモニタリングを併用することにより,帯水層内で生じる地下水フラックスの変動や,複数の地域スケールでの地下水流動の変化を把握することが可能である(例えば,Yamano and Goto,2001;Benseほか,2016など)。各観測地点で観測された地下温度の変動を,地下地質構造や地盤や広域的な地下水流動の変化と併せて解析することにより,都市化や地下水開発が地下水環境に与える影響を即応的に把握・評価することができる。流域水資源管理ならびに持続可能な地下水利用を実現するためには,既設観測井網を活用した即応的な地下水開発監視・評価システムの確立が不可欠である。本発表は埼玉県-秋田大学-産業技術総合研究所による共同研究の成果の一部である。