日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS12] Marine ecosystems and biogeochemical cycles: theory, observation and modeling

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 302 (3F)

コンビーナ:伊藤 進一(東京大学大気海洋研究所)、平田 貴文(北海道大学地球環境科学研究院)、Enrique N Curchitser(Rutgers University New Brunswick)、Eileen E Hofmann(Old Dominion University)、座長:松村 義正(東京大学大気海洋研究所)

11:20 〜 11:35

[AOS12-08] 瀬戸内海中央部における栄養塩変動に対する低次生態系の応答

*吉江 直樹1水口 隼人1郭 新宇1米田 道夫2阿保 勝之2河野 悌昌2藤田 辰徳3 (1.愛媛大学沿岸環境科学研究センター、2.水産研究・教育機構、3.香川県水産試験場)

キーワード:生態系モデル、栄養塩、ケイ藻、メソ動物プランクトン、カタクチイワシ

瀬戸内海は豊饒の海と呼ばれ、世界の半閉鎖的海域と比較すると数倍から一桁高い漁業生産性を誇ってきた。その一方で、瀬戸内周辺の狭い集水域には約三千万人が生活し、重化学工業を主体にGDPで比較するとカナダ一国と同程度の経済活動を行ってきた。そのため、高度経済成長期には人間活動に伴う環境負荷により汚濁・富栄養化が進行し、赤潮・貧酸素化などの環境問題が多発した。その後、環境負荷の削減に向けた環境規制と住民・企業などの四十年以上にわたる弛まぬ努力により、瀬戸内海は栄養塩濃度が低く、透明度の高い「きれいな海」へと回復してきた。しかし、近年の栄養塩濃度低下に伴い生物生産が低下している可能性や、水産資源の減少につながっている可能性が指摘されているが、その関連性については明らかになっていない。瀬戸内海の水産資源として非常に重要なカタクチイワシ仔稚魚(シラス)の漁獲量は、瀬戸内海中央部の燧灘において、2005年以降急激に減少している。最新の研究から、この減少の原因は、カタクチイワシの餌料として重要な動物プランクトンの減少と関連していることが明らかになりつつあるが、栄養塩変動と動物プランクトン変動の関連性については明らかになっていない。
そこで本研究では、燧灘における栄養塩濃度変動に対する動物プランクトンを含む低次生態系の応答について生態系モデルを用いて調べた。具体的には、海洋生態系モデルeNEMURO (4N-4P-4Z-3D) を燧灘に適用し、平年的な低次生態系の季節変動を再現できるようにした。そして、カタクチイワシの資源変動に最も関連性が高いカタクチイワシ仔稚魚5月発生群の漁獲量が、豊漁であった2005年と不漁であった2011年における栄養塩濃度の観測値をモデルに与え、両年の低次生態系の季節変動について比較した。その結果、不漁年では春季の栄養塩濃度の大幅な減少に応じて、春季の珪藻ブルームの規模と春季のメソ動物現存量が大きく減少することが明らかとなった。このことから春季の栄養塩濃度の経年変化が珪藻ブルームの規模を左右し、カタクチイワシの餌として重要なメソ動物の現存量の経年変動を引き起こしている可能性が示唆された。