日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS13] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 102 (1F)

コンビーナ:田中 潔(東京大学)、森本 昭彦(愛媛大学)、速水 祐一(佐賀大学)、一見 和彦(香川大学瀬戸内圏研究センター)、座長:田中 潔森本 昭彦

11:45 〜 12:00

[AOS13-05] 豊後水道の底入り潮の発生特性

*森本 昭彦1藤田 修哉1武岡 英隆1郭 新宇1 (1.愛媛大学)

キーワード:底入り潮、豊後水道

九州と四国の間に位置し太平洋に面している豊後水道では、初夏から晩秋にかけて底層に低温で高栄養な水塊が陸棚斜面域から間欠的に進入する底入り潮と呼ばれる現象が起こる。Kaneda et al. (2002)によると、底入り潮は夏季の小潮期を中心に約15cm/sの流れを伴って発生すると報告されている。しかしながら、2016年に豊後水道中央部の海底上で測定された流速と水温のデータを使い11回の底入り潮について解析したところ、底入り潮に伴う流速は過去の研究と同程度であったが、発生時期は必ずしも小潮期でないことが示された。Kaneda et al. (2002)は1995年~1997年のデータを、我々は2016年のデータを使って解析を行っており、使用データの違いがこのような結果になった可能性がある。そこで、本研究では、長期間の水温データを使い底入り潮の発生の特徴を再検討し、底入り潮がどのような現象なのか理解を深めることを目的とする。

 Kaneda et al. (2002)が解析対象とした内海では、1995年から現在まで多層の水温が継続的に観測されている。また、内海以外の5測点(北から法華津、遊子、下波、福浦、沖の島)においても、愛媛大学により2008年より多層の水温が継続して観測されている。本研究では、各多層水温観測点での最深層の水温データを解析に使用する。ここで底入り潮の発生期間は、30時間以上連続で水温が低下し、その低下量が0.5℃より大きい場合を底入り潮が発生したと判断し、その後最低水温となる時までと定義した。

内海の1997年~2011年までの水深60mの水温データから底入り潮の発生時期を抽出し、発生時期と月齢との関係を調べたところすべての月齢で同程度の発生頻度となっており、底入り潮の発生が月齢に依存していないという結果となった。同様に、法華津、下波、福浦、沖の島においても、底入り潮の発生と月齢の間に明瞭な関係は見られなかった。ただし、遊子においてだけ小潮期に底入り潮の発生頻度が高いという結果となった。底入り潮に伴う水温低下量は、内海の場合0.5℃~7℃とそれぞれの底入り潮で大きく変わる。このような底入り潮の強度(水温変化量)により、月齢との関係が変わる可能性があると考え、水温低下量が2℃以下と以上のケースにわけて月齢との関係を調べた。どちらのケースにおいても底入り潮の発生と月齢の間には関係が認められなかった。年毎のデータにより内海での底入り潮と月齢の関係を調べたが、1997年~2011年のすべての年において小潮期に発生するという特徴は認められなかった。

 上記の解析結果から、豊後水道の底入り潮は大潮、小潮に関係なく発生していることが分かった。ただし、遊子においてだけ、底入り潮の発生と月齢の間に関係がみられた。これは、遊子の西側に半島や島が存在するため潮流による鉛直混合が大きく、豊後水道内に進入した低温水が小潮期の鉛直混合が弱い時期にだけその海域を通過し進入できるためと考えられる。Kaneda et al. (2002)が使用した1995~1996年の内海のデータを調べると、たしかに底入り潮は小潮期に発生する傾向を示していた。したがって、1995~2011年の17年間で小潮期に底入り潮が発生していたのはこの2年間だけであった。講演時には、なぜこの2年だけ小潮期に底入り潮が発生したのかについて考察した結果を報告する。