13:45 〜 14:00
[AOS13-07] 有明海奥部の貧酸素水塊の変動-酸素消費の主体は何か-
キーワード:有明海、貧酸素、大潮小潮変動、酸素消費、シャットネラ赤潮
夏季の有明海奥部では、上層流出・下層流入のエスチュアリー循環が卓越し、その結果底層の懸濁物質は湾奥向きに輸送され、集積する。同時に、小潮時には成層が強まって貧酸素水塊が発達し、大潮時には鉛直混合して貧酸素化が弱まるというサイクルを繰り返す。このような貧酸素化は成層強化による酸素の鉛直輸送の減少のみによって生じるのか、酸素消費量の変動も影響するのかは、これまでの研究では分かっていない。特に、透明度が低く、有光層よりも深い層に有機物が物理的に集積してくる有明海奥部底層では、酸素消費に密接に関係する微生物群集の活動が活発だと予想される。そこで本研究では、貧酸素に関わる生態系・物質輸送の動態を調べるため、2008年夏季の有明海奥部において、係留系によって水温・塩分・流速・溶存酸素・濁度等の連続観測を行うと共に、1大潮小潮周期の間に6回の船舶観測を行った。船舶観測では物理観測に加えて微小従属栄養生物調査、懸濁態安定同位体比の調査を行った。また、底上1mの海水を採取して酸素消費実験をおこなった。
係留観測開始後、7月29日に台風が有明海を直撃したため、主要な係留系を撤収した。8月14日にも九州に台風が上陸し、風が強まった。7月30日に表層の、8月1日に底層の係留系を再設置してから、有明海奥部を縦断する測線に沿って8月1日、5日、8日、12日と1大潮小潮周期をカバーした船舶調査を干潮時に行った。8月5日が小潮、8月11日が大潮である。測点3における係留観測の結果からは、大潮と台風にともなった強風による鉛直混合が重なったため、水柱は良く鉛直混合し、8月1日朝の時点でも水温は鉛直一様であった。その後、小潮にかけて底層水温は低下・底層塩分は上昇し、8月8日に最も成層が強まった。その後再び大潮にかけて鉛直混合が進み、8月11日には再び鉛直混合した。底層のDOは8月1日から小潮にかけて低下し、8月4日には3 mg/Lを下回った。底層DOが3 mg/L以下の状態は8月10日まで継続した。表層では、7月下旬からシャットネラ赤潮が発生しており、少なくとも8月13日まで継続した。縦断観測の結果でも、大潮から小潮にかけての沖合からの低温・高塩分水進入による成層強化と、それにともなった貧酸素水塊の形成が確認された。8月12日になると湾奥では成層は弱まり、貧酸素水塊は湾奥では解消され、沖合底層に形成された。湾奥底層では8月1日には底上に高濁度水塊が形成されていたが、8月1日・8日には濁度は低下し、8月12日に再び高濁度となった。底層水の酸素消費は8月1日から5日にかけて低下、その後再び上昇して8月12日に最も高くなった。全酸素消費に対するバクテリアの呼吸、化学的酸素消費の寄与を調べる目的で、8月6日と13日に、底層水についてホルマリンとクロラムフェニコールを添加した酸素消費実験をおこなった。その結果、8月6日には全酸素消費の約80%がバクテリアによる呼吸であったが、8月13日にはほとんどがバクテリア以外の生物の呼吸であった。化学的酸素消費の寄与は両日ともほとんどみられなかった。酸素消費速度とクロロフィルa濃度の間には高い正の相関がみられた(R=0.90)。酸素消費と濁度にも相関があったが、クロロフィルに比べると弱かった(R=0.61)
8月1日から5日までの間には、水温25.5℃以下、塩分29.5以上の低温・高塩分が湾奥底層に進入して成層を強化し、底層には貧酸素水塊が形成された。しかし、底層水の酸素消費速度はこの間低下した。これは、貧酸素水塊の発達の主要因は成層強化であり、酸素消費の増加ではないことを示す。一方で、大潮の8月1日・12日には酸素消費が高かった。同時期に底層の濁度も上昇していた。これは、大潮時には強い鉛直混合による活発な再懸濁によって底層の有機物量が増加し、酸素消費が増加したことを示唆する。酸素消費速度とクロロフィルaの間には高い正の相関が見られた。しかし、貧酸素水塊発達期である8月6日には酸素消費の主体はバクテリアであり、植物プランクトンの呼吸の寄与は小さいと考えられた。このことは、植物プランクトン由来の基質がバクテリアによって分解され、酸素消費が起きていたことを示す。本観測期間中はシャットネラ赤潮が継続的に発生しており、クロロフィルa濃度の最高値は72.3 ug/Lに達した。この赤潮に由来する有機物供給が底層の酸素消費速度に影響した可能性がある。
係留観測開始後、7月29日に台風が有明海を直撃したため、主要な係留系を撤収した。8月14日にも九州に台風が上陸し、風が強まった。7月30日に表層の、8月1日に底層の係留系を再設置してから、有明海奥部を縦断する測線に沿って8月1日、5日、8日、12日と1大潮小潮周期をカバーした船舶調査を干潮時に行った。8月5日が小潮、8月11日が大潮である。測点3における係留観測の結果からは、大潮と台風にともなった強風による鉛直混合が重なったため、水柱は良く鉛直混合し、8月1日朝の時点でも水温は鉛直一様であった。その後、小潮にかけて底層水温は低下・底層塩分は上昇し、8月8日に最も成層が強まった。その後再び大潮にかけて鉛直混合が進み、8月11日には再び鉛直混合した。底層のDOは8月1日から小潮にかけて低下し、8月4日には3 mg/Lを下回った。底層DOが3 mg/L以下の状態は8月10日まで継続した。表層では、7月下旬からシャットネラ赤潮が発生しており、少なくとも8月13日まで継続した。縦断観測の結果でも、大潮から小潮にかけての沖合からの低温・高塩分水進入による成層強化と、それにともなった貧酸素水塊の形成が確認された。8月12日になると湾奥では成層は弱まり、貧酸素水塊は湾奥では解消され、沖合底層に形成された。湾奥底層では8月1日には底上に高濁度水塊が形成されていたが、8月1日・8日には濁度は低下し、8月12日に再び高濁度となった。底層水の酸素消費は8月1日から5日にかけて低下、その後再び上昇して8月12日に最も高くなった。全酸素消費に対するバクテリアの呼吸、化学的酸素消費の寄与を調べる目的で、8月6日と13日に、底層水についてホルマリンとクロラムフェニコールを添加した酸素消費実験をおこなった。その結果、8月6日には全酸素消費の約80%がバクテリアによる呼吸であったが、8月13日にはほとんどがバクテリア以外の生物の呼吸であった。化学的酸素消費の寄与は両日ともほとんどみられなかった。酸素消費速度とクロロフィルa濃度の間には高い正の相関がみられた(R=0.90)。酸素消費と濁度にも相関があったが、クロロフィルに比べると弱かった(R=0.61)
8月1日から5日までの間には、水温25.5℃以下、塩分29.5以上の低温・高塩分が湾奥底層に進入して成層を強化し、底層には貧酸素水塊が形成された。しかし、底層水の酸素消費速度はこの間低下した。これは、貧酸素水塊の発達の主要因は成層強化であり、酸素消費の増加ではないことを示す。一方で、大潮の8月1日・12日には酸素消費が高かった。同時期に底層の濁度も上昇していた。これは、大潮時には強い鉛直混合による活発な再懸濁によって底層の有機物量が増加し、酸素消費が増加したことを示唆する。酸素消費速度とクロロフィルaの間には高い正の相関が見られた。しかし、貧酸素水塊発達期である8月6日には酸素消費の主体はバクテリアであり、植物プランクトンの呼吸の寄与は小さいと考えられた。このことは、植物プランクトン由来の基質がバクテリアによって分解され、酸素消費が起きていたことを示す。本観測期間中はシャットネラ赤潮が継続的に発生しており、クロロフィルa濃度の最高値は72.3 ug/Lに達した。この赤潮に由来する有機物供給が底層の酸素消費速度に影響した可能性がある。