日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS19] 海洋と大気の波動・渦・循環力学

2019年5月27日(月) 09:00 〜 10:30 301A (3F)

コンビーナ:田中 祐希(東京大学大学院理学系研究科)、古恵 亮(APL/JAMSTEC)、久木 幸治(琉球大学)、杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室)、座長:杉本 憲彦古恵 亮

09:15 〜 09:30

[AOS19-02] 日本付近で発達する温帯低気圧の構造 ―日本付近と北西大西洋の比較―

*栃本 英伍1新野 宏1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:温帯低気圧、前線、ジェット気流

温帯低気圧は、水平スケールが数千キロメートル、時間スケールが数日〜1週間程度の気象現象であり、中高緯度大気で発生・発達する。温帯低気圧は、日々の天候に大きな影響を与えるが、時に大雨・集中豪雨や竜巻等の突風を生ずることで気象災害の原因となる。また低気圧活動は、大気ブロッキングなどのより大規模な時空間スケールの変動に大きな影響を与える事が指摘されている(Pfahl et al. 2015)。したがって、温帯低気圧の構造・力学を理解することは重要である。温帯低気圧の構造と時間発展に関する概念モデルは、大きく分けて2つ提案されている。一つは、20世紀初頭にノルウェー学派によって提唱された低気圧モデルで、ノルウェーモデルと呼ばれる。このモデルでは、低気圧の成熟段階において、寒冷前線が温暖前線に追いつき、閉塞前線を形成する。一方、大西洋における1990年代の特別観測や研究プロジェクトを基に提案されたのがシャピロ・カイザーモデル(Shapiro and Keyser 1990)である。このモデルでは、閉塞前線を形成せず、低気圧の後方に向かって伸びる後屈温暖前線を形成する。これらのモデルは北西太平洋なヨーロッパの低気圧の研究を基に提案されたものであり、必ずしも北西太平洋や日本付近の低気圧に当てはまるとは限らない。実際に、北西太平洋の低気圧の構造に関する事例解析では、大西洋の低気圧と比較して寒冷前線が弱いなどの特徴が指摘されている(e.g., Takano 2002;津村・山崎2005)。そこで本研究は、長期再解析データから低気圧および前線を客観的に抽出し、日本付近で発達する低気圧と北西大西洋で発達する低気圧構造の統計的な特徴を比較した。

解析期間は1978年12月〜2016年11月の春季(MAM)、秋季(SON)、冬期(DJF)である。使用したデータはJRA-55(Kobayashi et al. 2015)で、水平格子間隔は1.25度、時間間隔は6時間である。温帯低気圧の客観的抽出にはHodges (1994, 1995, 1999)の手法を用いた。ある程度発達する低気圧の特徴を調べるために発達率が0.5 Bergeron (Sanders and Gyakum 1980)以上の低気圧を対象とした。また、北西太平洋で発達する低気圧をPacific Ocean Cyclone (POC), 日本海およびオホーツク海で発達する低気圧をOkhotsk-Japan Sea Cyclone (OJC) とした。低気圧に伴う前線の特徴を調べるために、thermal front parameter (TFP; Hewson 1998)を用いた。本研究ではSchemm et al. (2015) と同様に850hPaの相当温位を採用し、TFP=0の場所が4格子点以上連続していれば前線と定義した。

また、低気圧の構造を調べるために、POC, OJCそれぞれのカテゴリーにおいて、各低気圧の中心を重ね合わせたコンポジット解析を行った。ここで、Key Time (KT)は発達率最大の時刻とし、その前後48時間(KT-48〜KT+48)の時間発展を調べた。

低気圧中心を合わせたコンポジット解析を行った結果、OJC、POC、AOC間で前線構造に異なる特徴が見られた。KTにおいて、OJCは寒冷前線の発達が温暖前線よりも活発であり、特にMAMにおいて寒冷前線の発達が顕著であった。一方、POC・AOCは温暖前線・寒冷前線共に発達が顕著である。寒冷前線は冬季に出現頻度が相対的に低くなるが、春季には活発となり、大西洋の低気圧と比較しても出現頻度が高い。Takano (2002)や津村・山崎(2005)の解析した事例は冬季の事例であったため、寒冷前線が不明瞭であったことが示唆される。KTの12時間後、OJCは寒冷前線が低気圧の南東領域に移り、温暖前線の発達は見られない。一方、POC・AOCは活発な温暖前線が維持され、後屈温暖前線の構造を持っていた。AOCとPOCを比較すると、AOCは温暖前線が低気圧中心から、東北東〜東方へ伸びる構造を持つのに対し、POCでは東南東〜南東へ伸びる構造を持っていた。これらのことから、日本付近の低気圧に伴う前線構造とその時間発展は、発達する領域によって異なることを示している。

また、前線発達の物理プロセスを前線形成関数により調査した。その結果、AOCでは、より前線の北側でシアー変形項が大きくなっており、後屈前線の発達への寄与を示唆した。また、POCでは、低気圧の東南東領域でシアー変形項がより大きくなっており、より東南東方向への温暖前線の発達を示唆した。